老人ホームを転居する方法|介護施設住み替え時の注意点とは
老人ホームを転居したい理由はさまざま
「老人ホームを転居したい」と考える理由はさまざまで、人によって異なります。老人ホームの転居を考える主な理由としては、次のようなものが挙げられます。
- 老人ホームでの生活が合わない
- 人間関係の問題
- 金銭的な問題
- 身体症状の変化い
このうち、「金銭的な問題」「身体状態の変化」は、物理的に今の老人ホームで生活を続けていくのが難しいため、転居せざるを得ない理由となります。
■老人ホームでの生活が合わない
老人ホームでの生活が合わないという理由としては、「老人ホームの施設や設備が入居前のイメージと違う」「施設のルールが合わない」「窮屈に感じる」といったことが挙げられます。
また、「日中にやることがない」といった理由から生活に不満を感じるケースもあります。
- 設備や施設、サービスが思っていたよりも充実していない
- 部屋が思っていたよりも狭い
- 老人ホームのルールが自分の生活パターンと合わない
- 1人での外出が認められないなど、生活の自由度が低い
- 毎日やることがなく、退屈している
- 自分の趣味を生かせるサークルやレクリエーション活動といった場がない
■人間関係の問題
人間関係によって老人ホームを転居したいといった理由には、スタッフの対応によるもの、入居者同士の関係性によるものがあります。
また、入居者の要介護度が自分よりも高い人が多い、あるいは低い人が多いといった場合も、住みづらさを感じる要因となります。
- スタッフから入居時のような手厚いサポートが受けられなくなった
- スタッフの自分に対する対応が冷たいように感じる
- 自分よりも要介護度が高い人が多く、仲間ができない
- 自分よりも要介護度が低い人が多く、落ち着いて過ごせない
- 他の入居者と合わない
- 他の入居者から誹謗中傷を受けている
- 生活態度や騒音などを巡って、他の入居者とトラブルになっている
■金銭的な問題
金銭的な問題によって老人ホームを転居したいという理由には、「毎月の費用の支払いが難しくなった」というようなことが挙げられます。
費用を支払う側の問題のケースや、支払い額の増加によるケースがあります。いずれの場合においても、支払いが可能な施設に住み替えるなどの対応を早期に検討することが必要です。
- 家族の生活の変化によって、費用の支払いが厳しくなった
- 介護保険の適用外のサービスの利用が増えて、金銭的な負担が重い
■身体症状の変化
身体症状の変化によって老人ホームを転居したいという理由としては、認知症や要介護度、医療ケアの必要性などによって、今の施設の設備やスタッフの体制では対応が厳しくなっている状況が挙げられます。
こうしたケースでは、対応できる介護施設を早急に探すなどといった対処が必要です。
- 認知症の症状の悪化により、退去を勧告された
- 要介護度が上がったため、対応できなくなった
- 持病の悪化や新たな病気にかかったことなどにより、医療ケアが必要となった
老人ホームの住み替えはメリットだけではない
老人ホームの住み替えは、必ずしも「転居後の施設での暮らしの方が、より良いものになる」といったメリットだけとは限りません。
金銭的な問題や、身体状態の変化による理由から老人ホームの転居を検討している場合は、早急に新たな介護施設を探す必要があります。しかし、それ以外の理由で老人ホームでの生活が合わないケースや、人間関係の問題によるケースでは、住み替えたからといって、全ての問題が解決するとは限りません。
例えば、人間関係の問題では、どこの老人ホームに入居しても、多かれ少なかれ、合う人と合わない人がいることが考えられます。人間関係のトラブルは、どこの施設であっても起こり得る問題です。
むしろ、新たな施設への住み替えは、入居者にとって身体的にも精神的にも負担がかかるものです。老人ホームは、施設によって運営方針が異なり、スタッフも違うため、また一から入居者同士の人間関係を構築してくこととなります。転居先の老人ホームで、新たな問題が起こる可能性も否めません。
そのため、入居者本人が住み替えを希望した場合、安易に転居を決めることは避け、まずは転居したい理由を明確にすることが大切です。その上で、今の状況で解決することはできないのか、あるいは転居すれば解決できる問題なのか、状況を整理してから判断しましょう。
老人ホームを住み替える方法
老人ホームの住み替えについて、入居者本人の意思や家族などで十分に検討した結果、他の介護施設へ転居することを決めたら、以下のような形のステップを踏んで準備を進めていきます。
- 転居先を探す
- 退去手続き
- 住民票の届け出
老人ホームを住み替える際には、まず転居先を探すことからスタートします。
転居したい理由を解消できる施設を探すため、希望条件に優先順位を付け、候補となる複数の施設を見学し、比較検討を行うのがポイントです。転居先の施設が決まったら、速やかに今の老人ホームの規定にのっとって、退去手続きを行います。老人ホームを住み替える際には、住民票の届け出も必要です。
■転居先を探す
老人ホームを住み替えるときには、まず転居先を探すことから始めます。
何回も住み替えを繰り返すことは、入居者本人も家族も負担が大きいため、慎重に施設を探すことが大切です。
「部屋が広くてきれいだから」「家族の暮らす家から近いから」といった表面的な理由だけで、安易に次の施設を決めるのは避けるべきです。
転居先の老人ホームを探すに当たっては、転居したい理由を解消できる施設を探すことが大切です。今の老人ホームに欠けている点を明確にしてから希望条件を整理し、優先順位を付けていきます。
また、新たな老人ホームに入居してから「イメージと違った」という事態を避けるために、転居先の候補となる老人ホームには、必ず見学に行くようにします。身体の状態などから移動が困難ということでなければ、入居者本人も足を運び、実際に自分の目で施設の様子を確認するのが望ましいです。
老人ホームを見学した際に、転居を考えている理由について相談すると、その施設への住み替えによって問題の解決を図れるかどうかを検討する上での参考となります。複数の老人ホームを見学し、比較検討することで、入居者に合った施設を見つけやすくなります。
シニアのあんしん相談室では、ご希望の条件で相談員が施設をお探しします。
転居しようか迷っている方、転居先を早く探したい方など、転居に関してもご相談ください。
■退去手続き
転居先の老人ホームが決まったら、速やかに今の老人ホームの退去手続きを行います。
「退去希望日の1カ月前までに申し出る」というルールが設けられているのが一般的です。 ただし、認知症の進行や要介護度が上がったことなどにより、老人ホーム側から退去を勧告されている場合には、通常1カ月以内、あるいは3カ月以内といった猶予期間が設けられます。それまでに転居先の施設を探し、退去手続きを行うことを求められるという点に注意が必要です。
退去手続きの方法は、老人ホームによって異なる部分もありますが、基本的には各老人ホームが設けている規定によります。退去手続きの際、入居一時金を納めている場合は、清算が行われます。
■住民票の届け出
住民票のある場所が住所となるため、老人ホームを住み替えるときには、住民票を移すことが基本となります。今の老人ホームに住民票を移している場合は、住所地の市区町村の役所に転出届を提出し、転出証明書の発行を受け、新たに入居する老人ホームの住所地の市区町村の役所に転入届を提出します。
また、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、軽費老人ホーム(ケアハウス)、有料老人ホームなどで、住所地特例の対象施設となっている場合には、居住する市区町村が変わっても、元の自宅の所在地の市区町村の介護保険を、引き続き利用することとなります。住民票を移した後で、市区町村の役所に「介護保険住所地特例適用・変更・終了届」の提出が必要です。
例えば、「A市の自宅からB市の老人ホームに入り、C市の老人ホームへ住み替えた」といったようなケースでも、「A市」が介護保険の保険者となります。
住所地特例の手続きについては、入居する老人ホームで確認しましょう。
老人ホーム転居の注意点
老人ホームの転居を検討する際には、次のような注意点が挙げられます。
- 決断する前に相談する
- 入居金の返還トラブル
- 原状回復費用の発生
老人ホームの転居は、安易に決断することを避けるべきであり、決断する前に施設のケアマネジャーや生活相談員に、入居者の不満や悩みを相談すべきです。
また、退去に際し、入居一時金の返還に関するトラブルが起こることもあるため、契約内容を確認しておくことが大切です。また、居室の原状回復費用として、故意や過失、通常の範囲を超える使用による損耗があった場合には、修理費用を求められるケースがあります。
■決断する前に相談する
老人ホームの住み替えは、入居者本人にとっても家族にとっても負担が大きいものです。
入居者が転居したいという希望を伝えてきた際には、初めから住み替えを前提にするのではなく、転居したい理由を解決できないかどうか、一度模索してみることが大切です。
入居者本人が転居したいと考えている理由にもよりますが、施設のケアマネジャー、生活相談員、施設長などに相談してみることをおすすめします。老人ホームの規模によっては、「お客さま相談窓口」が設けられているので、ホームのスタッフに話しにくいことを相談すると良いでしょう。
相談する際には、転居を考えていることを伝えるのではなく、転居したい理由の基となっている入居者が不満に感じている点や悩みを解消できないかどうか、話してみましょう。
相談することで、入居者本人の不満や悩みを老人ホームで解決できれば、住み替えをする必要がなくなります。
■入居金の返還トラブル
有料老人ホームなどに入居している場合、入居一時金を支払っているケースでは、居住した期間によって全額または一部が返還されます。しかし、入居一時金の返還を巡ってトラブルになるケースがある点に注意が必要です。
入居したところがイメージと違っていたというケース、入居後すぐに体調の悪化によって入院するために退去を余儀なくされたというケースなどで、契約から90日以内に解約して退去する場合には、クーリングオフが適用されるため、入居一時金が全額返還されます。
契約から90日を過ぎてから解約して退去する場合には、入居一時金は契約に基づいた初期償却と償却期間によって計算を行い、返還金が発生する場合には、一部が返還されます。 初期償却とは、入居から91日目に、入居一時金の10~30%の償却を行うものです。
(2000万円―2000万円×20%)/120カ月×(120カ月―36カ月)=1120万円
返還金:1120万円
入居一時金の返還でトラブルになるのは、法律で権利金の受領が禁止されているにも関わらず、入居一時金を返還する際に権利金分を差し引くことによるものです。契約から90日を過ぎたタイミングで、ルールに沿って初期償却を行うことは、認められています。
■原状回復費用の発生
老人ホームを退去する際には、居室の原状回復費用が発生する可能性を踏まえておく必要があります。
原状回復費用とは、故意や過失、あるいは通常の範囲を超える使用によって、損耗が生じた場合の修繕費用です。老人ホームの契約書でも、原状回復費用の負担について記載されているのが一般的です。
有料老人ホームの原状回復費用は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にされているため、原状回復費用の考え方としては、基本的に一般的な民間の賃貸住宅と同じです。
経年劣化や通常の使用による損耗は、原状回復費用の負担の対象外です。
例えば、「日に当たってフローリングが色落ちした」「家具を置いて床が凹んだ」といったケースでは、経年劣化や通常の使用による損耗に当たるため、入居者の原状回復費用の対象となりません。一方、「床にお茶をこぼして変色させてしまった」「車椅子を壁にぶつけてしまって壁紙を破いた」といったケースでは、原状回復費用の対象となると考えられます。
ただし、原状回復費用は、どこまでが入居者の負担になるかの線引きが曖昧なこともあり、費用負担を巡ってトラブルになることがあります。
まとめ
老人ホームの転居は、入居者本人と家族の負担が大きいことから、老人ホームでの生活が合わないことや人間関係の問題が理由の場合には、慎重に判断すべきです。一度、施設の関係者に相談してから決めるのが望ましいです。老人ホームの住み替えをするという結論に至った場合は、複数の施設を見学し、転居したい理由を解決できるような、入居者本人に合ったところを探しましょう。
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