老人ホームや介護施設で受けられるリハビリとは?内容や施設の種類、費用を解説
2024.5.27
この記事の監修者:さとひろ
介護系の専門学校を卒業後、特別養護老人ホームに勤め介護職員やケアマネジャーを経験。資格取得のための研修講師や新規施設の開設にも携わる。現在は生活相談員として、入所調整や家族対応、行政対応や請求業務などを担っている。 2022年からライターとしての活動。複雑な介護業界の制度をわかりやすく解説します。 保有資格:社会福祉士、公認心理師、介護支援専門員、介護福祉士など
■この記事でわかること
- ・老人ホームで受けられるリハビリの内容
- ・リハビリ体制のある老人ホーム
- ・老人ホームでリハビリを受ける際の費用
老人ホームで受けられるリハビリとは
まず前提として、老人ホームの種類や施設によって、リハビリの有無や内容は異なります。
例えば、介護老人保健施設はリハビリをして自宅へ戻ることを目的とした施設なので、積極的にリハビリを行います。一方、特別養護老人ホームは年齢による体の機能の低下を少しでも遅らせることが目的なので、病院のような個別のリハビリは難しいケースが多いです。
老人ホームで受けられるリハビリには、介護リハビリと医療リハビリの2種類があります。
介護リハビリは、施設に配置されているリハビリの専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)や、機能訓練指導員、介護職員、看護職員が行い、介護保険を利用します。一方の医療リハビリは、外部からリハビリの専門職に来てもらい、医療保険を用いて行います。
いずれも、基本的には日常生活のなかで必要とされる動作や心身機能の維持を目指し、できないことをできるようにする、できることを維持させるという点では目的は同じです。
老人ホームで受けられるリハビリ内容の詳細
老人ホームで受けられるリハビリ内容は、誰が行なうのか、どの形態で実施されるのかによって異なります。ここでは、専門職ごとのリハビリ内容と、実施形態ごとのリハビリ内容について、それぞれ見ていきましょう。
専門職ごとのリハビリ内容
リハビリ専門職とは、一般的に理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を指します。それぞれの役割は下表のとおりです。
専門職 | リハビリにおける役割 |
---|---|
理学療法士 | 歩く・立つ・座る・寝るといった人間の基本的な動作の維持、改善するための訓練を行う。ベッドや家具の位置など、環境面のアドバイスも行う。 |
作業療法士 | 手作業を通じて機能の回復を図る専門職。日常的な動作に関する訓練や、遊び、趣味のなかで手先を使う訓練を行う。 |
言語聴覚士 | 言語や聴覚、摂食・嚥下などに障害のある人に様々な訓練や指導を行う専門職。少しでも長く口から食事を摂れるような関わりを期待されている。 |
老人ホームにおける専門職ごとのリハビリでは、これらの専門職が主体となり、介護職員や介護士などの職員と連携してリハビリを行うこともあります。
また、施設によっては機能訓練指導員が在籍していることもあります。機能訓練指導員は、介護保険施設に配置が義務付けられており、日常生活に必要な機能の改善や減退を防止するための訓練を行う職種です。国家資格を所有している者が機能訓練指導員として介護保険施設に在籍し、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、一定の経験のあるはり師・きゅう師が対象となっています。
ここからは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の役割について、それぞれ見ていきましょう。
理学療法士によるリハビリ
理学療法士は、PT(Physical Therapist)と呼ばれる動作の専門家です。怪我や病気などが原因で体に障害のある人や、障害が残ってしまう可能性のある人に対して、運動療法や電気マッサージなどの物理的療法を用いて医学的なリハビリを行います。
老人ホームでは、体の機能の維持・改善のために、歩く・立つ・座る・寝るといった人間の基本的な動作をできるだけ自分で行えるよう計画を立てたり訓練したりします。また、介護対象者の力を使いながらも安全に生活できるよう、ベッドや家具などの配置についてアドバイスをするのも役割の1つです。
作業療法士によるリハビリ
作業療法士はOT(Occupational Therapist)と呼ばれる、手作業を通じて機能の回復を図る専門職です。身体や精神に障害のある人を対象に、医師の指示のもと、遊びや工作、手芸などを通じて治療や指導、援助を行います。
老人ホームでは、入居者が自立した生活を送ることができるよう、字の読み書きや着替えなどの日常生活上の動作の訓練を実施していきます。また、絵画、陶芸、木工、金工、手工芸、園芸、織物といった趣味のなかで手先を使う訓練や治療を行うことも特徴です。
作業療法では、作業を通じて他の入居者との関わりが増えるため、精神面でも良い影響があります。
【監修者コメント】
リハビリを行うことで、身体機能だけでなく、精神面が安定する方も多くいます。定期的に行うことで、その日を楽しみに生活できる方もいます。
言語聴覚士によるリハビリ
言語聴覚士はST(Speech-Language-Hearing Therapist)とも呼ばれ、言語や聴覚、摂食・嚥下(食べる・飲みこむ)などに障害のある人にさまざまな訓練や指導を行う専門職です。
発声や聴覚、嚥下、認知機能に何らかの障害がある方に言語聴覚療法を行い、食べる機能や飲み込む力、話す力を回復することを目指しています。
老人ホームでは、食べ物を飲み込む力が衰えてきた入居者に対して嚥下訓練を行い、少しでも長く口から食べ物を食べられるように支援する役割を担います。
リハビリの実施形態
ここでは、老人ホームで一般的に行われているリハビリの内容を紹介します。
リハビリの内容 | 詳細 |
---|---|
個別リハビリ | 入居者と一対一で行う。専門職が個別に対応するため、リハビリの効果が高い。一回のリハビリは20分程度。 |
集団リハビリ | 一度に2人以上の入居者に対して行う。皆で一緒に体を動かしたり、歌を歌ったりするため、生活の楽しみとなる。一回1時間程度。 |
生活リハビリ | 介護職員や看護職員などが日常生活のなかで行う。時間や回数を決めるのではなく、食事や排泄などの日常生活で使う動作を利用する。 |
個別リハビリ
個別リハビリとは、理学療法士や作業療法士などの専門職が入居者と一対一で行うリハビリです。専門職が個別に対応するため、リハビリの効果が高く、主に病院や介護老人保健施設で実施されています。
リハビリの時間は、対象者の体力に合わせて、1回20分程度です。なお、条件によっては介護保険の適用になる場合もあります。
具体的には、以下のような訓練があります。
- ・歩行訓練
- ・立位訓練
- ・起き上がり訓練
- ・関節可動域訓練
- ・食事動作訓練
- ・排泄動作訓練
- ・電気療法など
集団リハビリ
集団リハビリは、2人以上の入居者に対して同時に行われるリハビリのことです。入居者の個別性に合わせた対応は難しいですが、皆で一緒に体を動かしたり、歌を歌ったりするため、生活の楽しみや毎日の習慣として取り組めます。
特別養護老人ホームや介護老人保健施設では、食事前やおやつ前後に行うことが多く、時間は概ね1時間程度です。
具体的な内容は以下のとおりです。
- ・音楽療法
- ・集団体操
- ・風船バレー
- ・口腔体操
- ・工作活動など
生活リハビリ
生活リハビリとは、理学療法士や作業療法士などの専門職ではなく、介護職員や看護職員などのスタッフが、日常生活のなかで行うリハビリです。時間や回数を決めるのではなく、食事や排泄などの日常生活で使う動作を利用します。
リハビリのスタッフが十分ではない特別養護老人ホームでは、生活リハビリを中心に実施します。
具体的な内容は以下のとおりです。
- ・車椅子を使っている人がトイレに行くときに、数メートル手前から歩く
- ・ベッドから車椅子に移乗する際に、数秒間立ったまま姿勢を保持する
- ・着替えを行うときに、手や足を動かせる範囲で動かす、ボタンの開け閉めを自分でする
【監修者コメント】
生活リハビリを意識することで、普通に生活しているだけで自然と自分の力を使えるようになる方もいます。
リハビリ体制のある老人ホームの種類
老人ホームの種類はいくつもありますが、リハビリの体制については施設の種類によって大きく異なります。ここでは、老人ホームのなかでも、とくにリハビリの体制が整っている施設を紹介します。
介護老人保健施設
介護老人保健施設は、在宅復帰や在宅療養を目標としてリハビリを提供する施設です。病気や怪我で入院し、治療は済んだものの、すぐに自宅に戻るのが不安な方が、リハビリをして自宅に戻れるようになることを目的としています。
入居者ごとに作られたケアプランにもとづいて、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった専門職によるリハビリを受けられます。リハビリの回数や時間には規定があり、入居して3ヶ月間は1週間に3回以上、1回あたり20分以上というルールです。また、3ヶ月以降は規定が無くなるため、リハビリの回数は減ってしまいます。
入所期間の目安は3〜6ヶ月なので、時期が近づくと、自宅に戻るのか入所を継続するかどうかの退所審査が行われます。
介護医療院
介護医療院は、病状が安定して治療の必要性は低いものの、胃ろうや喀痰吸引、中心静脈栄養などの医療的なケアが日常的に必要な方が入所しています。病院に併設されていることが多く、必要な医療サービスやリハビリのほか、食事や排泄、入浴などの日常的な介護を受けられます。
介護医療院に入院している方はベッドで過ごす時間が長い方も多いため、集団でのリハビリよりは、個別リハビリが中心です。例えば、関節が固くなり、うまく座れない方に対して、車椅子上の姿勢を整えたり、関節の曲げ伸ばしの訓練を行って動きが少しでも良くなるように働きかけたりします。
民間の有料老人ホーム
介護付き、住宅型、健康型の3つの民間の有料老人ホームのなかでも、介護付き有料老人ホームは機能訓練指導員の配置基準が1人以上と法律で定められており、リハビリに対応しています。
しかし、施設によってリハビリの内容が大きく異なるため、実際にどの程度のリハビリができるかは、各施設に問い合わせて確認する必要があります。
なお、住宅型や健康型の有料老人ホームは、機能訓練指導員の配置は義務づけられてはいません。どうしてもリハビリを受けたい場合は、外部のサービスを利用することになります。
老人ホームでリハビリを受ける際の費用
以下の施設は「特定施設入居者生活介護」に該当するため、機能訓練指導員や介護職員など施設スタッフによる個別リハビリを受ける場合は、1日あたり120円程度の費用がかかります。
- ・有料老人ホーム
- ・ケアハウス(軽費老人ホーム)
- ・養護老人ホーム
- ・サービス付き高齢者向け住宅(有料老人ホームに該当する場合)
→食事の提供、入浴等の介護、調理等の家事、健康の維持増進、その他のサービスの提供を行う「サービス付き高齢者向け住宅」は有料老人ホームに該当する
外部の専門職と施設の職員が共同して行うリハビリの場合は、月あたり2,000円程度かかります。これらの金額は介護保険が適用されるので、実際の自己負担額は1~3割です。
なお、特定施設入居者生活介護は、有料老人ホームやケアハウスのような特定施設に入居している要介護者に対して、日常生活上の世話、機能訓練、療養上の世話を提供する施設です。それぞれの種類の施設のすべてが対象になるわけではなく、有料老人ホームは介護付きのみが該当します。また、ケアハウスやサービス付き高齢者住宅は、基準を満たした一部の施設のみが対象です。
その他の施設でリハビリを受ける場合の費用は、以下のとおりです。
施設の種類 | 費用の目安 |
---|---|
特別養護老人ホーム | 1日あたり120円程度(1ヶ月あたり3,600円程度) ※外部の専門職と施設の職員が共同して行うリハビリの場合は、月あたり2,000円程度(1日あたり120円程度のリハビリを行う場合は1,000円程度) |
介護老人保健施設 | 3ヶ月間の短期集中リハビリ:1日あたり2,400円程度 |
グループホーム | 1ヶ月あたり2,000円程度 |
介護医療院 | 理学療法:1日あたり730~1,230円程度 作業療法:1日あたり1,230円程度 3ヶ月間の短期集中リハビリ:1日あたり2,400円程度 |
シニア向け分譲マンション | 外部サービス利用のため依頼先ごとに費用が異なる |
シニア向け分譲マンション以外は介護保険サービスを利用してリハビリを行うため、実際の自己負担額は上記費用の1〜3割です。例えば、費用が2,000円であれば1割負担では200円となります。負担割合は所得と65歳以上の世帯人数によって変わりますが、基本的には1割になることが多いです。
老人ホームのリハビリ内容まとめ
本記事では、老人ホームで受けられるリハビリについて解説しました。リハビリには理学療法士や作業療法士、言語聴覚士のような専門職が行うものだけではなく、介護職員や看護職員が行うものもあります。
実施内容についても、一対一の個別リハビリ以外だけではなく、集団で行うものや、生活のなかで行うものなどがあります。施設の種類によってどの程度リハビリを受けられるかはさまざまです。費用もそれぞれ異なるため、入居を決める前に各施設へ確認すると良いでしょう。
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【監修者コメント】
老人ホームに入居してから、実はリハビリができない施設だったとわかる事例も起きています。リハビリを希望する際は、入居前に直接施設へ確認できると良いでしょう。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)