看取り介護とは|施設での流れや大切なことにターミナルケアとの違いを説明
2021.9.29
高齢化社会の到来などにより、介護施設で看取り介護を受けて最期の時を迎えるケースが増えています。かつては、終末期には病院に入院して延命治療を受けるのが一般的でしたが、「自分らしく尊厳を持って死を迎えたい」というニーズの高まりからも、看取り介護が注目されるようになりました。
看取り介護とは何かという概要を説明した上で、看取り介護のサービス内容や流れなどを紹介します。
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看取りとは
「看取り」とは、死が近づいている人に対して無理な延命治療を行わず、自然に死を迎える過程を見守ることをいいます。昨今では、看取りにおいて、残された人生をその人らしく充実して過ごすことや、人間の尊厳を守ることが重視されています。
■看取りの場所
看取りを行う場所は、主に病院、介護施設、在宅で、このうち病院が多くを占めています。
- ・病院
- ・介護施設
- ・在宅
【病院】
看取りの場所としては、病院が最も多く、点滴などの医療処置を行うのが特徴です。医師の指示に基づいて、痛みなどの苦痛を緩和するための医療処置を実施し、いわゆるターミナルケアに近い形となります。
また、病院での看取りでは、家族に対し、医師から病状の説明が行われます。
【介護施設】
昨今、増加傾向にあるのが介護施設での看取りです。 特別養護老人ホームは、基本的に要介護3以上でなければ入居できないため、要介護度が高い人が中心で、「ついのすみか」としても位置付けられています。また、病気の治療による回復が見込めないケースや在宅介護での看取りが難しいケースでも、介護施設での看取りが選ばれています。
介護施設での看取りで病院への搬送を希望しない場合は、対応できる医療の範囲が限られていることを、本人・家族が理解しておくことが大切です。
【在宅】
在宅で看取りを行う場合は、家族や介護サービスの利用によって介護の体制を整えるだけではなく、医師や訪問看護による医療チームの体制を整えることが必要です。在宅での看取りに理解のあるケアマネージャーと連携するのが望ましいです。
在宅での看取りでは、最期を迎えた時に死亡診断書を書いてもらえる看取りに対応する医師の確保が不可欠です。ある程度の期間にわたって診察を行っていた医師でなければ、死因が病気の進行や老衰によるものといった判断を行うことができません。自宅で亡くなった場合は、医師による死亡診断書がなければ「異常死」という扱いとなり、警察による検死が必要となってしまいます。在宅医は、ケアマネージャーや利用している病院のソーシャルワーカーから紹介してもらう方法が挙げられます。
また、本人が自宅で最期を迎えたいと考えていても、「家族に介護の負担がかかる」「一人暮らしで難しい」といった課題から、実現できないこともあります。
■看取りとターミナルケアの違い
看取りと類似するものとして、ターミナルケアがあります。ターミナルケアは「終末期医療」ともいわれ、病気で死期が近づいている人、老衰、認知症で寝たきりとなり食事が取れなくなった人などに対し、延命措置を行わず苦痛を緩和するための処置を行うことで、「QOL(Quality of Life=生活の質)」を維持することが目的です。
看取りとターミナルケアは、病気による死期が近づいている人に対し、人間としての尊厳を守り、無理な延命治療を行わないという点では似ています。ただし、看取りは日常生活の介助を中心としているのに対し、ターミナルケアは医師の指示によって酸素吸入や点滴を行うなど医療を中心にしたケアであり、アプローチ方法に違いがあります。
看取り介護・看取りケアとは
「看取り介護」「看取りケア」とは、死期が近づいた人がなるべく穏やかに人生の最期を過ごせるよう、医師の指示に従って苦痛を緩和しながら人間としての尊厳を守り、生活支援を行うことをいいます。また、看取り介護・看取りケアは、日常生活上の介助など、介護を中心に行います。
■看取りができる施設
看取り介護は、さまざまな介護施設で行われていますが、対応しているのは、主に以下の施設が挙げられます。
- ・『特別養護老人ホーム』
原則として要介護3以上の常時介護が必要な高齢者が入所する施設
- ・『介護老人保健施設』
要介護1以上の高齢者が、病気などで入院した後、在宅復帰を目指すための施設で、原則として入所期間は3カ月
- ・『グループホーム』
認知症の高齢者が小規模のユニットで共同生活を送る施設で、家事やリハビリテーションなどを通じて認知症の症状の進行の緩和を目指す
- ・『有料老人ホーム(介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム)』
民間の老人ホームのため入居費用や月額費用はやや高め。介護付き有料老人ホームは、特定施設入居者生活介護の指定を受けている施設のため施設のスタッフによる介護サービスが利用可能、住宅型有料老人ホームは、外部サービスを利用する形式
ただし、上記に挙げた施設の全てが看取りに対応しているというわけではありません。介護・医療体制や職員の教育などの問題から、看取りに対応していない施設もあります。特別養護老人ホームは、「ついのすみか」となることが多く、全体の約7割が終末期を迎えた入居者への看取りを行っています。
また、デイサービスなど、通所系の介護サービスで看取りを行うのは難しいです。
看取り介護ができる施設をお探しであれば、「シニアのあんしん相談室」にご相談ください。まずはご状況を伺ったうえで、施設のご提案をいたします。
■看取り介護のサービス内容
介護施設などで行われる看取り介護のサービスでは、次に挙げる3つのサービスが主に提供されています。それぞれについて紹介します。
- ・精神的ストレスの緩和
- ・身体的ストレスの緩和
- ・家族に対するケア
【精神的ストレスの緩和】
死を迎える時期が近づいていることで、不安や恐怖を抱えやすく、これまで自身でできていたことができなくなることにストレスを感じる場合もあります。そこで、コミュニケーションなどを通じて、そういった精神的なストレスを緩和します。
例えば、「気分はどうですか?」「何か気がかりなことはありますか?」とこまめに声をかけて悩みを聞くなど、不安な気持ちに寄り添い、なるべく孤独感にさいなまれないよう配慮します。あるいは、「何かやりたいことはありますか?」と聞いてみるなど、できるだけ本人がやりたいことを実現できるようにサポートしたり、介護スタッフや家族にしてほしいことを尋ねたりします。
【身体的ストレスの緩和】
本人の希望を踏まえながら、苦痛が緩和できるようにケアを行っていきます。身体の状態を把握するために、血圧、脈拍、呼吸、体温など、バイタルサインの管理が行われます。
また、食事、排せつ、入浴など日常生活上のケアは、看取り介護の中心となるものです。 食事の面では、これまで食べていたものを口にしなくなったり、好みが変わったりすることがあります。食事の内容、形状、量を調整し、食べることへの負担を軽減します。 排せつの介助では、本人の身体状態によって本人の希望を確認した上で、ポータブルトイレやおむつを使用することもあります。感染症予防の観点から、リラックスするためにできるだけ入浴を行い、難しい場合は清拭などで清潔に保ちます。
また、寝たきりの状態で寝返りが打てないと、床擦れしやすくなります。長時間同じ姿勢でいることの苦痛を緩和するためにも、定期的に体位交換が行われます。
【家族に対するケア】
大切な人が近い将来亡くなってしまうことにより、家族も精神的に不安定な状態になりやすいため、看取り介護では、家族に対するケアもサポート対象です。家族がストレスから体調を崩さないよう、悩み相談やアドバイスなどが行われます。また、家族には、本人の身体、精神面の状況、今後の意向を伝えるなど、こまめにコミュニケーションを取り、信頼関係を構築していきます。
介護スタッフは、本人と接する時間が多く、家族よりも意向を把握しているケースがあります。本人は「家族に迷惑をかけたくない」と考えているのに対し、家族は「できる限り、充実した日々を過ごしてほしい」と考えていることもあり、介護スタッフがお互いの意思の疎通を図れるようにサポートします。
また、亡くなられた後も、葬儀などのサポートを行います。看取りの後、家族は喪失感を抱えることが多いです。死を受け入れ、立ち直るためのケアを「グリーフケア」と呼んでいます。グリーフケアでは、家族に生前の本人の様子などを伝えます。
施設での看取り介護の流れ
介護施設では、入所から看取りに至るまで、一般的に次のような経過で看取り介護を行っていきます。看取り介護の流れについて、それぞれの段階ごとの対応などを紹介します。
■①入所・適応期
「入所・適応期」は、入所した介護施設や介護スタッフに慣れていくための時期です。本人の心身の状態に応じてケアプランが作成されます。 また、本人・家族に対し、施設の理念、看取りの方針、施設の医療提供体制、対応できる範囲、今後の経過の予測などの説明が行われます。そして、尊厳ある死を迎えるため、本人の死生観や意向のヒアリングが実施されます。
入所から1カ月程度経った段階で、急変時に備え、終末期の対応について「リビング・ウィル」と呼ばれる生前意思確認が実施されます。生前意思確認で確認するのは、「心臓マッサージなどの心肺蘇生」「延命のための人工呼吸器の装着」「人工透析」「点滴による水分補給」「鼻チューブによる栄養補給」「胃ろうの造設による栄養補給」のそれぞれの処置への希望の有無です。ただし、生前意思確認は、決定事項ではなく、いつでも変更することが可能です。
■②安定期
「安定期」は、一時的に体調が悪化しても回復する時期です。人生の最期に向けて自分らしい生活を送るための準備を行います。
入所から半年程度が経過したタイミングでは、実際に施設で一定期間暮らすことにより、介護施設と本人・家族の信頼関係が構築されていきます。入所前の意識とは変化が生じることもあるため、再度、今後の暮らし方の希望や終末期の対応に関する希望の確認が行われます。また、心身の状態や本人などの希望に応じて、ケアプランが変更されます。
■③不安定・低下期
「不安定・低下期」は、治療による回復が見込めなくなり、食事量の低下や体重減少などが起こり、身体の機能の低下が明らかになる時期です。これまでできていていたことができなくなるケースもあるため、心身の状態に応じてケアプランの変更が行われます。嚥下機能が低下している場合は、食事の形状が変更されます。
また、病状や今後の経過の予測が伝えられ、本人・家族がどのような医療行為を望んでいるのか、入院を希望するのかなど、改めて今後の計画を立てていきます。
■④看取り期
「看取り期」は、今後の回復が望めなくなる時期です。意識レベルが低下することがある他、明らかな衰弱が見られます。看取り期では、具体的に死を迎えることへの準備が行われます。
病状や施設で対応できることについての説明があり、本人・家族の終末期の対応について、再度確認されます。また、看取り介護計画書や看取り介護同意書の説明が行われ、本人または家族からの同意を取ります。
看取り期では、本人が会いたい人や会わせたい人に早めに連絡をとることが大切です。また、できるだけ最期の時に家族が立ち会えるよう、配慮されます。亡くなった際に本人が着る服や葬儀などについても、相談しておきます。
■⑤看取り後
亡くなった時は、医師が死亡診断を行った後、「エンゼルケア」といわれる死後の処理が施されます。「看取り後」の対応は、本人が希望していた服を着せるなど、基本的に本人・家族との相談によって事前に決められた手順に沿って行われます。
また、家族に対しては、グリーフケアなどのサポートが実施されます。施設にもよりますが、介護スタッフとともにお別れの時間が取られたり、介護スタッフが葬儀に参列したりするケースもあります。また、これまでの看取り介護を振り返り、本人・家族の希望するケアが行われたかどうか、適切なケアを提供できたかどうか、介護スタッフが話し合った結果が、必要に応じて家族に伝えられます。
看取り介護で大切なこと
看取り介護で大切なのは、最期までその人らしく生きられるよう、人間としての尊厳を保持することです。看取り介護では、本人・家族の意思を尊重した上で、身体的な苦痛や精神的なストレスを緩和し、できるだけ穏やかな生活を送れるようにすることが重視されます。そのため、残された時間を本人が自分らしく過ごし、天寿を全うできるようにケアが行われます。
まとめ
誰しも必ず寿命を迎えることになりますが、看取り介護によって、自分らしく穏やかに最期の時を迎えることができます。在宅介護による看取りは、家族の負担が大きいため、老人ホームで看取り介護を受けることも選択肢となります。施設では、本人・家族の意向を踏まえた看取り介護が行われています。ただし、人によって合う施設が異なるため、本人・家族に合った施設を選びたいものです。看取り介護やターミナルケアが可能な老人ホーム・介護施設は、以下から検索することができます。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)