老人ホームの費用は補助金制度で抑えられる?
2024.5.29
老人ホームへの入居を検討するにあたって「入居費用をなるべく抑えたい」「利用料が高額になると払えない」と考えている方も多いでしょう。
老人ホーム(介護施設)の費用には、初期費用と月額利用料があります。施設によって異なりますが、初期費用は0円〜数億円、月額利用料の平均は5万円〜35万円程度かかり、その負担は大きいものです。
本記事では、老人ホームで使える補助金や減税制度について解説しています。費用を抑えて予算にあった施設を選びたい方は、ぜひ最後までお読みください。
なお、有料老人ホームの平均費用と、有料老人ホームを含む介護施設の種類ごとの平均費用については、以下の記事を参照してください。
老人ホームにかかる費用とは|年金で賄えるのかを知って備えることが大切老人ホーム・介護施設の種類
この記事の監修者:さとひろ
介護系の専門学校を卒業後、特別養護老人ホームに勤め介護職員やケアマネジャーを経験。資格取得のための研修講師や新規施設の開設にも携わる。現在は生活相談員として、入所調整や家族対応、行政対応や請求業務などを担っている。 2022年からライターとしての活動。複雑な介護業界の制度をわかりやすく解説します。 保有資格:社会福祉士、公認心理師、介護支援専門員、介護福祉士など
■この記事でわかること
- ・老人ホームで使える補助金
- ・老人ホームで使える減税制度
- ・それぞれの制度の概要
老人ホームで使える補助金・減税制度
老人ホームの費用は施設によって異なりますが、経済的な負担が大きくなってしまう場合もあります。下表は、老人ホームで使える補助金や減税制度に関する7つの制度についてまとめたものです。
制度名 | 制度の概要 | 補助額 |
---|---|---|
1.特定入所者介護サービス費 | 基準額から負担上限額を引いた額が補助される | 下記金額を超える金額を補助金として支給される(日額) [居住費]320円~1,310円 [食費]300円~1,360円 ※支給の基準額あり ※所得段階、施設の種類、部屋のタイプによって異なる |
2.高額医療・高額介護合算制度 | 1年間に負担した医療費と介護サービス費の合計が、負担上限額を超えたときに、超えた分が返還される | 年収や年齢により19万円〜212万円を超えた金額 |
3.高額介護サービス費 | 1ヶ月の介護サービス費が負担上限額を超えたときに、超えた分が返還される | 下記金額を超えた金額 [生活保護受給者]15,000円 [課税所得690万円以上]140,100円 |
4.社会福祉法人等による利用者負担軽減制度 | 社会福祉法人や地方自治体が、低所得者に対して利用者負担を軽減する | 利用者負担額の25% 利用者負担段階が1段階の方は50% |
5.介護保険施設における医療費控除 | 1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、所得税の控除を受けられる | 施設サービス費、食費、居住費の自己負担額(特別養護老人ホームは自己負担額の1/2) |
6.自治体独自の助成制度 | 自治体独自に設けている助成制度 | 自治体ごとに異なる |
7.介護保険料の減免制度 | 何らかの理由で生活が困窮している方に対して介護保険料を軽減する制度 | 消費税の引き上げに伴い実施した、公費による保険料軽減強化を行う前の第4段階保険料の1/2(要問合わせ) |
それぞれの制度について、詳しく解説します。
【1】特定入所者介護サービス費
特定入所者介護サービス費は、特別養護老人ホームや介護老人保健施設のような介護保険施設で、居住費や食費の負担額の一部が介護保険から支給される制度です。所得の低い方を対象としており、住民税の課税状況や年金額、預貯金額によって決められている「負担限度額」を超えた分が支給されます。
支給を受ける際は、市区町村の介護保険窓口へ申請し「介護保険負担限度額認定証」の交付を受ける必要があります。
補助額 (負担限度額) |
下記金額を超える金額を補助金として支給される(日額) ・特別養護老人ホーム 居住費:320円~1,310円 食費:300円~1,360円 ・介護老人保健施設、介護医療院 居住費:370円~1,310円 食費:300円~1,360円 ・短期入所生活保護(ショートステイ) ※1日単位で入居できる施設で、連続利用は最長30日まで ※日常生活の支援、機能訓練を提供 [居住費]320円~1,310円 [食費]300円~1,300円 ・短期入所療養介護 ※1日単位で入居できる施設で、連続利用は最長30日まで ※日常生活上の世話、医療、看護、機能訓練を提供 [居住費]370円~1,310円 [食費]300円~1,300円 ※所得段階、施設の種類、部屋のタイプによって異なる ※詳細は表1をご覧ください |
補助対象施設 |
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補助対象 |
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補助対象者 |
第1段階 生活保護受給者 世帯全員が市町村民税を非課税で、なおかつ老齢福祉年金受給者 ・預貯金額:単身1,000万円、夫婦2,000万円 ・第2段階 世帯全員が市町村民税を非課税で、なおかつ以下に該当する者 ・合計所得金額:80万円以下 ・預貯金額:単身1,000万円、夫婦2,000万円 ・第3段階① 世帯全員が市町村民税を非課税で、なおかつ以下に該当する者 ・合計所得金額:80万円超~120万円以下 ・預貯金額:単身650万円、夫婦1,650万円 ・第3段階② 世帯全員が市町村民税を非課税で、なおかつ以下に該当する者 ・合計所得金額:120万円超え ・預貯金額:単身500万円、夫婦1,500万円 ※合計所得金額は「入居者本人の公的年金年収入額」+「その他の合計所得金額」 ※段階によって食費・居住費の負担限度額が変動 |
申請方法 | 市町村窓口に申請(負担限度額認定を受ける) |
公式ホームページ | https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html |
支給される金額は、法律で定められている「基準費用額」を基準とし、負担限度額を超える金額が助成金として支給されます。つまり、基準費用額から負担限度額を引いた額が支給額です。なお、表内の合計所得の計算には、遺族年金や障害年金といった非課税年金も含みます。
所得段階、施設の種類、部屋のタイプごとの負担限度額は以下の表のとおりです。
<表1:負担限度額一覧表>
所得段階 | 特別養護老人ホーム ※[]は短期入所生活介護(ショートステイ) |
介護老人保健施設介 ※[]は短期入所療養介護 |
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基本費用額 | 食費 | 1,445円 | ||
居住費 | ①ユニット型個室 :2,006円 ②ユニット型個室的多床室:1,668円 ③従来型個室 :1,171円 ④多床室 :855円 |
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第1 | 負担限度額 | 食費 | 300円 | 300円 |
居住費 | ①820円 ②490円 ③320円 ④0円 |
①820円 ②490円 ③490円 ④0円 |
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第2 | 食費 | 390円 [600円] |
390円 [600円] |
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居住費 | ①820円 ②490円 ③420円 ④370円 |
①820円 ②490円 ③490円 ④370円 |
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第3の① | 食費 | 650円 [1,000円] |
650円 [1,000円] |
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居住費 | ①1,310円 ②1,310円 ③820円 ④370円 |
①1,310円 ②1,310円 ③1,310円 ④370円 |
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第3の② | 食費 | 1,360円 [1,300円] |
1,360円 [1,300円] |
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居住費 | ①1,310円 ②1,310円 ③820円 ④370円 |
①1,310円 ②1,310円 ③1,310円 ④370円 |
【2】高額医療・高額介護合算制度
高額医療・高額介護合算制度は、医療保険と介護保険の自己負担額が高額な場合に、負担を軽減する制度です。1年間の自己負担額の合計が、年収や年齢によって決められた負担上限額を超えた際に、超えた分が支給されます。
毎年8月1日から翌年の7月31日までに発生した金額を対象にしています。
補助額 (負担限度額) |
下記金額を超える金額を補助金として支給される(年額) ・年収:約1,160万円 70歳未満~75歳以上:212万円 ・年収:約770~約1,160万円 70歳未満~75歳以上:141万円 ・年収:約370~約770万円 70歳未満~75歳以上:67万円 ・年収:約370万円 70歳未満:60万円 70歳~75歳以上:56万円 ・町村民税世帯非課税等 70歳未満:34万円 70歳~75歳以上:31万円 ・世帯全員が市町村民税非課税等かつ年金収入80万円以下等 70歳未満:34万円 70歳~75歳以上(本人):19万円 70歳~75歳以上(介護利用者が複数):31万円 |
補助対象施設 | 指定なし |
補助対象 | 医療保険と介護保険の自己負担分の合計額
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補助対象者 |
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申請方法 |
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公式ホームページ | https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kaigi/doc/senmon138shi02_6.pdf |
支給の対象になると、市町村によって申請書や申請勧奨の通知が届きます。介護保険窓口へ申請して受理されると、介護自己負担額証明書が送られてきます。次に、この介護自己負担額証明書を申請書に添付して医療保険者へ提出しましょう。
申請が通ると、介護保険分は高額医療合算介護サービス費として、医療保険分は高額介護合算療養費として支給されます。
対象になるのは世帯なので、夫婦での合算も可能ですが、加入している医療保険が同じでなければなりません。例えば、夫が後期高齢者医療保険で妻が国民健康保険の対象者の場合は、自己負担額の合算はできないので注意が必要です。
【3】高額介護サービス費
介護保険サービスを利用した際の自己負担額は、所得に応じて1〜3割に抑えられています。しかし、日常的にサービスを利用すると、その分経済的な負担は大きくなります。高額介護サービス費は、1ヶ月の介護保険サービスの自己負担分が、所得によって定められた限度額を超えたときに、超えた分の金額が返還される制度です。
概要は以下の表を参照してください。
補助額 (負担限度額) |
下記金額を超える金額を補助金として支給される(月額) ・課税所得690万円(年収約1,160万円以上) 140,100円(世帯) ・課税所得380万円~690万円(年収約770〜約1,160万円)未満 93,000円(世帯) ・市区町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満br> 44,400円(世帯) ・町村民税世帯非課税等 24,600円(世帯) ・世帯の全員が市町村民税非課税で、 公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下 24,600円(世帯)、15,000円(個人) ・生活保護を受給している方等 15,000円(個人) |
補助対象施設 | 指定なし |
補助対象 | 医療保険と介護保険の自己負担分の合計額
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補助対象者 | 介護保険給付対象者 |
申請方法 |
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公式ホームページ | https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html |
高額介護サービス費の負担上限額は、市町村民税の課税状況と、課税所得の金額によって決まります。以前は、課税世帯の場合は一律44,400円が上限額でしたが、2021年8月に改定され、高所得の方の負担上限額が引き上げられました。
支給を受けるには申請が必要です。対象になると市町村から申請書が送られてくるため、必要事項を記載して返送しましょう。受理されたあと、申請書に記載した口座へ自動的に振り込まれます。2回目以降は申請不要で、振り込み通知のみ送付されます。
【4】社会福祉法人等による利用者負担軽減制度
介護保険サービスを提供する社会福祉法人や地方自治体が、低所得者に対して利用者負担を軽減する制度です。経済的な理由で必要な介護保険サービスの利用を受けられなくなることを防ぐ目的があり、実施主体は市町村です。
概要を下表にまとめます。
補助額 (負担限度額) |
利用者負担額の25%(利用者負担段階が1段階の方は50%) |
補助対象施設 |
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補助対象 | 医療保険と介護保険の自己負担分の合計額
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補助対象者 | 市町村民税非課税で、以下の要件のすべてを満たしたうえで、市町村が認めた者が対象
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申請方法 | 市町村の窓口にて申請 <必要なもの>
※世帯の課税状況を確認するために、確定申告書や通帳、借用書などの写しの提出を求められる場合がある |
公式ホームページ | https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kaigi/050907/dl/02.pdf |
市町村へ申請すると「社会福祉法人による利用者負担軽減確認証」が交付されます。減免を受けるためには、サービスを利用する際に、各事業所や施設に提出する必要があります。なお、事業所や施設によっては制度の対象になっていない場合もあるため、利用する際は確認しましょう。
【5】介護保険施設における医療費控除
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、所得税の控除を受けられる制度です。確定申告を行うことで、所得控除が受けられます。介護保険施設の利用料金の一部も医療費控除の対象になるため、必要な方は手続きを忘れないようにしましょう。
補助額 (負担限度額) |
(年間の医療費の総額ー保険金で補填される金額)ー10万円 ※控除額は200万円が上限 ※介護保険施設の利用料金のうち、以下の金額は年間の医療費として計上されます。 特別養護老人ホーム 施設サービス費、食費、居住費にかかる自己負担額として支払った金額の2分の1に相当する金額 介護老人保健施設、介護医療院 施設サービス費、食費、居住費にかかる自己負担額として支払った金額 |
補助対象施設 |
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補助対象 |
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補助対象者 | 以下の介護保険施設に入所している要介護者のうち、1年間に支払った医療費が10万円を超えている方
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申請方法 | 確定申告に関する書類を作成し税務署へ提出する |
公式ホームページ | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1125.htm |
医療費控除の対象になるのは、施設サービス費と食費、居住費です。理美容や日用品の購入などの日常生活に必要な費用や、特別なサービス費用(行事食、特別室など)については対象になりません。
高額介護サービス費として払い戻しを受けた場合は、その金額を差し引いて医療費控除の計算をするので、市町村からの支払い通知を失くさずに保管しておきましょう。医療費控除の対象になる金額は、各施設から発行される領収書に記載されるので、確認してください。
【監修者コメント】
特別養護老人ホームで働いていると、確定申告が近づいた時期に、入居者から1年間分の領収書の再発行を依頼されることがあります。施設によっては対応できない場合もあるため、毎月送られてくる領収書を保管しておきましょう。
【6】自治体独自の助成制度
国の制度以外でも、各自治体が独自に助成制度を設けていることが多いです。内容は自治体ごとに異なります。ここでは静岡県静岡市の「居宅サービス利用促進事業」について紹介します。
補助額 (負担限度額) |
1ヶ月に利用した在宅でのサービスの自己負担額のうち、3,000円を超えた金額の1/2(要問合わせ) |
補助対象施設 | 居宅サービス
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補助対象 | 居宅介護サービス費 |
補助対象者 |
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申請方法 | 市町村の窓口で申請 |
公式ホームページ | https://www.city.shizuoka.lg.jp/000_003304.html |
静岡市では、負担限度額認定や高額介護サービス費の支給、社会福祉法人等によるサービス利用料の軽減など法律で定められている助成制度のほかに、居宅サービス利用者向けの制度を設けています。
また、ほかの自治体では、緊急通報システムやおむつ・おむつ代の支給、住宅改修の補助などの制度を設けている地域もあります。なお、自治体独自の補助制度は、主に市町村民税が非課税の方を対象にしています。
サービス内容や対象者などがそれぞれ異なるため、誰がどのサービスを利用できるのか、お住まいの地域の役所に相談し、いざというときに備えておくのもよいでしょう。
【7】介護保険料の減免制度
介護保険料は40歳から支払いが始まり、生涯払い続けるものです。滞納すると延滞金が上乗せされる場合や、サービスを利用したときに一旦全額を支払わなければならない場合があります。
しかし、何らかの理由で生活が困窮している方は、要件を満たせば介護保険料の減免を受けられます。自治体ごとに基準を設けているため、ここでは大阪市の生活困窮者軽減について解説します。
補助額 (負担限度額) |
36,423円 ※消費税の引き上げに伴い実施した、公費による保険料軽減強化を行う前の第4段階保険料の1/2(要問合わせ) |
補助対象施設 | 指定なし |
補助対象 | 介護保険料 |
補助対象者 |
世帯全員が非課税で、次の1から4にすべて該当する方(生活保護受給者、養護老人ホーム入所者以外) 1.世帯の年収が次の額以下 1人世帯:150万円 2人世帯:198万円 3人世帯:246万円 ・以降、世帯員1人につき48万円を加算した額 ※遺族年金・障がい年金・仕送りなどのあらゆる収入が含まれる ※介護保険料や介護サービス利用料などが控除できる 2.扶養を受けていない 3.活用できる資産を有しない ・預貯金、国債などが1人世帯350万円を超えていないこと ・世帯員が1人増えるごとに100万円を加算 ・世帯単位で自己の居住用以外に処分可能な土地や家屋を所有していないこと 4.介護保険料を滞納していないこと |
申請方法 | 介護保険窓口にて申請 <必要なもの>
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公式ホームページ (大阪市) |
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000589854.html |
減免の内容や申請方法はそれぞれなので、対象の方は自治体への確認が必要です。また、ほかの自治体でも介護保険料の減免制度を定めているので、お住まいの自治体に確認してみるとよいでしょう。
老人ホームの入居で利用できる補助金制度【まとめ】
本記事では、老人ホームの入居で利用できる補助金制度について解説しました。法律で決められている制度以外にも、それぞれの自治体が独自に設けている制度もあります。いつかは利用するものと捉えて、お住まいの地域にどのような制度があるか調べておくと、いざというときに安心です。
補助金や助成制度をうまく活用すれば、介護にかかる費用を抑えられ、予算に合った施設を探しやすくなるでしょう。予算に合った施設を探すには、専門家に相談するのも1つの方法です。シニアのあんしん相談室では、施設入居を検討している方の希望を聞き取り、適切な施設をご紹介します。無料で利用できるので、まずは相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
【監修者コメント】
特別養護老人ホームで働いていると、確定申告が近づいた時期に、入居者から1年間分の領収書の再発行を依頼されることがあります。施設によっては対応できない場合もあるため、毎月送られてくる領収書を保管しておきましょう。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)