嚥下障害とは?原因・症状について解説|高齢者の誤嚥を防ぐリハビリ・予防法を紹介
2021.7.12
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嚥下障害とは?
「嚥下障害」とは、口の中の食事を飲み込んで胃に送ることを指す「嚥下」がうまくできないことをいいます。食べ物を飲み込む摂食運動のプロセスが正常に行われる場合には、嚥下反射によって喉頭蓋で気管が閉まり、食べ物が食道に送られます。しかし、摂食運動のプロセスが正常に行われなければ、喉頭蓋が閉まらず、食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥」と呼ばれる状態が起こります。
飲み込む機能が低下し、正しい嚥下反射が起きないと、食べ物が喉に詰まることによって窒息したり、誤嚥性肺炎が引き起こされたりするリスクがあります。厚生労働省のデータによると、肺炎患者の約70%以上が75歳以上の高齢者です。また、肺炎で入院する患者のうち、70歳以上の高齢者の70%以上が、誤嚥性肺炎によるものです。
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嚥下障害の原因とは?
高齢者の嚥下障害の原因は、大きく分けると次の4つに分類できます。
- ・器質的原因
- ・機能的原因
- ・心理的原因
- ・医原性の原因
「器質的原因」とは、口腔内から胃までの気管に、構造上の問題があるケースが該当します。
「機能的原因」は、筋肉や神経の問題によるものです。
「心理的原因」は、心因性の疾患によるものです。
「医原性の原因」は、薬剤や手術といった医療行為に起因するケースです。
また、高齢者の嚥下障害には、一つの原因だけではなく、複数の原因が絡み合って起こっていることもあります。
以下、嚥下障害の4つの原因の状態や介護者の取るべき対応について、ご紹介します。
■器質的原因
「器質的原因」とは、口腔内から胃までの器官のいずれかに問題があり、食べ物の通る道がふさがれていることによるもので、先天的な奇形によるケースもあります。器質的原因による嚥下障害で多いのは、次のような原因が挙げられます。
主な器質的原因 |
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器質的原因による嚥下障害が疑われる場合は、家族などの介護者が、医療機関への受診を促すことが大切です。原因となる疾病の治療、嚥下訓練、適切な食事形態、食べ方の指導などが行われる他、重度の嚥下障害では、手術が選択されることもあります。介護者は、嚥下機能に応じた食事を用意することが必要です。
■機能的原因
「機能的原因」は、器官の構造に異常がなく、器官を動かす筋肉や神経に問題があるため、喉頭蓋で気管を閉じにくいことから、嚥下障害が引き起こされるケースが該当します。機能的原因は、主に、次のような要因が基となります。
主な機能的原因 |
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機能的原因による嚥下障害においても、疾患に起因する場合には、疾患の治療が行われます。
医療機関では、嚥下訓練、適切な食事形態、食べ方の指導などが行われ、重度の嚥下障害や進行性の嚥下障害では、手術が行われることもあります。
脳卒中や認知症による嚥下障害の場合は、嚥下訓練のリハビリを行い、ゼリー状の嚥下食から段階的に通常の食事に近づけていきます。特に脳卒中では、適切なリハビリによって改善することが多いです。
その他の疾患や加齢などによって嚥下機能が低下していく場合には、よりやわらかい形態の嚥下食に徐々に切り替えていくこととなります。
■心理的原因
「心理的原因」による嚥下障害とは、精神的疾患によって起こるものです。精神的な疾患から喉に違和感を覚えることで、うまく飲み込みにくくなります。ただし、食事のときに飲み込みにくさを感じるケースは少なく、唾液を飲み込むようなときに「異物感が強い」と感じるケースが多いのが特徴です。
心理的原因の基となる精神的疾患には、主に次のようなものが挙げられます。
主な心理的原因因 |
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心理的原因による嚥下障害が疑われる場合も、家族などの介護者が、医療機関の受診を促すべきです。器質的原因などがないことを確認し、嚥下訓練によって自信を付けていくことで、嚥下機能の回復を目指します。
■医原性の原因
「医原性の原因」による嚥下障害は、医療行為が基で起こるケースのことをいいます。
医原性の原因による嚥下障害では、器質障害によるケースと機能障害によるケースの両方が考えられます。
医原性の原因による嚥下障害を引き起こすのは、主に次のような原因が挙げられます。
主な医原性の原因 |
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医原性の原因による嚥下障害が疑われる場合も、医療機関の受診が必要です。器質障害や機能障害によるケースと同様に対応します。
嚥下障害のときに見られる症状
次のような症状が出ている場合には、嚥下障害の可能性があります。
気を付けたい症状 |
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嚥下能力が低下している高齢者は、誤嚥を起こしやすいため、注意が必要です。耳鼻咽喉科一般外来を受診した75歳以上の高齢者81名を対象に行ったスクリーニング検査で、食物誤嚥例は24例、唾液誤嚥例は2例であったという調査結果があります。
参考:耳鼻咽喉科外来における嚥下障害スクリーニング項目の検討要介護者に嚥下障害の症状が見られるときは、飲み込みやすい食事を用意します。また、食事の介助を行うときには、一口ずつゆっくりかんで食べられる量とし、口の中が空になってから、次の食べ物を入れるようにするといった対処をしましょう。
■嚥下障害の症状が見られたときは?
明らかに嚥下障害の疑いが強いときには、かかりつけ医を受診するようにします。かかりつけ医がいない場合には、耳鼻咽喉科、歯科口腔外科、歯科、リハビリテーション科、神経内科、消化器科などを受診します。
医療機関によっては、嚥下障害の専門外来が設けられています。
嚥下障害の診断に当たっては、嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査といった医療機器を使って精密検査が行われます。中等度から重度の嚥下障害の疑いがあるケースでは、特に医師による診断が必要です。
一方、全ての高齢者に対して嚥下障害が疑われる場合、専門的な検査を行うことは現実的に難しいため、簡易検査として、スクリーニング検査によるチェックが行われることがあります。
ただし、スクリーニング検査をするには、全身状態が安定していて、挿管中ではないなどといった健康状態に要件があります。
<スクリーニング検査の例>
反復唾液嚥下テスト | 座っている状態で、口の中を湿らせ、30秒間のうちに唾液を飲み込める回数をチェックする 判断基準:30秒間で3回以上嚥下できれば「正常」、2回以下は「異常」 |
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水飲みテスト | 座った状態でコップに注いだ常温の水30mlを手渡しし、いつものように飲んでもらう 判断基準:5秒以内で1回でむせることなく飲めれば「正常」 |
ただし、スクリーニング検査は簡易的なものであり、嚥下障害が疑われる場合には、医師への相談が必要です。
■食事中にむせたときの対処法
嚥下障害が疑われる場合などに食事中にむせてしまったときは、誤嚥を起こさないように、介護者は焦らず対処することが大切です。
- 1.顔を下に向けて、口の中に食べ物が残っている場合には吐き出させるようにする。
- 2.背中をさすったり、軽くゆっくりたたく。深呼吸をすると、食べ物が気管に入ってしまう可能性があるため、ゆっくりと息をしてもらうようにする。
- 3.落ち着いてから「ぶくぶくうがい」をするときには、誤って飲んでしまわないように注意する。
むせると、咳き込んでしまうことが多いですが、手で口を覆い、口を閉じて咳をする行為も、気管に食べ物が入ってしまう原因です。口から手を10cm程度放した状態で、口を開けて咳をするように促します。
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嚥下障害がある場合の食事
嚥下障害がある場合は、誤嚥や窒息を防ぐために、飲み込みやすい食事を用意する必要があります。例えば、パン、イモ類などパサパサのもの、そぼろなどボロボロのもの、あるいは、貼り付きやすいノリやワカメなどは、むせたり、喉に詰まらせたりしやすいメニューです。そのため、食材の選び方や調理方法には工夫が必要であり、かむ力や飲み込む力に合った食事を用意することが大切です。
具体的な介護食の選び方についてはこちらの記事を参考にしてみてください。
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嚥下障害の代表的なリハビリを紹介
嚥下障害のリハビリには「基礎(間接)訓練」「摂食(直接)訓練」の2種類があります。
基礎(間接)訓練は、食べ物を使わずに舌、口、喉といった嚥下に必要な器官の機能の回復を図るものです。
一方、摂食(直接)訓練は、食べ物を食べることによるトレーニングで、水分やゼリーといったかむ必要がないものからスタートします。
リハビリは、危険を伴うものもあるため、医師の指導の下、言語聴覚士や看護師といった専門スタッフとともに行いますので、必ず医療機関に相談しましょう。
以下、基礎(間接)訓練と摂食(直接)訓練について、ご紹介します。
■基礎(間接)訓練
「基礎(間接)訓練」は、咀嚼や嚥下の機能の回復を目的とした、舌、口、喉などのトレーニングで、食べ物を使わずに行います。
基礎訓練の具体例としては、以下のような訓練が挙げられます。
- 1.嚥下体操
全身・首など、嚥下に活用する筋肉を活性化し、リラックス状態にするための準備体操
- 2.口唇・舌・頬の訓練
口腔器官の筋力などの低下の予防と、機能向上を図るための口唇・舌・頬の運動やマッサージ
- 3.氷なめ訓練
氷を口に含むことで冷刺激によって嚥下反射を誘発する訓練
- 4.頭部挙上訓練
食道の入口が大きく開くようにするため、舌骨上筋群などの筋力を強化する訓練
- 5.ブローイング訓練
コップに入れた水をストローで泡が立つまで吹くことなどによって、鼻咽腔閉鎖に関わる神経や筋肉の活性化を図る訓練
■摂食(直接)訓練
「摂食(直接)訓練」は、実際に食べ物を使って行う訓練で、初めのうちは、かむ必要のないゼリーなどを用いて、段階的に通常の食事に近づけるという流れになります。
基礎訓練と摂食訓練は、並行して行われることが多いです。 ただし、摂食訓練は、誤嚥のリスクがあることから、摂食訓練が可能な状態の場合のみ行われ、重度の嚥下障害や意識がはっきりしていないケースなどにおいては、基礎訓練から実施されます。
摂食訓練の具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 1.交互嚥下
固形物と流動物を交互に飲み込むことで、口腔内や咽頭の残留物をなくす訓練
- 2.ストロービベット法
コップに入れたストローで少量の水を飲ませることによる水分摂取法
- 3.スライス型ゼリー丸のみ法
薄くスライスしたゼリーを丸のみすることによる嚥下訓練
- 4.複数回嚥下(反復嚥下)
一回飲み込んだ後で空嚥下をすることで、咽頭への残留物を除去する訓練
- 5.食品調整
病気や嚥下障害の程度に合わせて、食品の形状などを調整することで嚥下後の残留物を減らす訓練
嚥下障害の予防におすすめな簡単体操
嚥下障害を予防するためには、飲み込むための機能を高める体操やストレッチを行うのが効果的です。自宅で簡単にできる訓練をご紹介します。
■のど上げ体操
【概要】
無意識に行っていた「飲み込む動作」を意識的に行うことで、嚥下能力を強化し、むせや誤嚥を防ぐ
【やり方】
口の中の様子を考えながら、少量の水を飲み込む→力を入れて水を飲み込む→飲み込む動作を途中で止める
【必要な時間】
約2~3分/各ステップ
■パタカラ体操
【概要】
発音によって食べ物を喉の奥まで運ぶ筋肉を鍛える体操
【やり方】
「パ」「タ」「カ」「ラ」の4音を、それぞれ5回ずつ発声するのを2回繰り返す→スピードを上げて「パ・タ・カ・ラ」の4音をそれぞれ3回ずつ発声するのを3回繰り返す→「パ・タ・カ・ラ」と続けて3回発声する
【必要な時間】
約5~6分
■嚥下体操
【概要】
顔や首の筋肉をほぐす、食事の前の準備体操
【やり方】
口をすぼめて深呼吸→首と肩の体操(首を回す→首を左右に倒す→肩を上げ下げする→手を上に伸ばして息を吐きながら手を下ろす)→嚥下おでこ体操(おでこに手を当てておへそをのぞき込む)→舌体操(舌を出し入れする→舌で左右の口角に触れる)→口をすぼめて深呼吸
【必要な時間】
3分
まとめ
嚥下障害の症状が見られたら、誤嚥を起こさないように、飲み込みやすい食事を用意するといった配慮が必要です。また、医療機関に相談し、リハビリなどの適切な処置を行うことで、嚥下障害が改善することがあります。嚥下障害が疑われる場合は、かかりつけ医や専門の医療機関などに相談しましょう。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)