老老介護とは|問題解決のために原因や増加の現状を知り対策を行うのが大切
2021.9.6
介護が必要な人の介護を高齢の家族が担う「老老介護」が、核家族化や長寿化などにより増加していることが社会問題となっています。老々介護は、介護者の負担の大きさなどから問題が起きることもあり、最悪の事態を招くことさえあります。そのため、老老介護を行っている状態に無理が生じているようであれば、対策を講じることが大切です。老老介護が増加している原因や、引き起こされる問題について見た上で、解決策などを紹介します。
目次 |
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老老介護とは
「老老介護」とは、65歳以上の高齢者が介護者として、65歳以上の高齢者である要介護者の介護を担うことをいいます。老老介護は、いずれも65歳以上の親子、夫婦、兄弟などの間柄で生じています。例えば、67歳の人が90歳の親を介護するケース、70歳の妻が75歳の夫を介護するケース、65歳の妹が72歳の姉を介護するケースなどが該当します。
老老介護の原因
現代の日本では、老老介護の増加傾向にあることが、社会問題となっています。主な原因としては、次のような理由が挙げられます。
- ・長寿化による介護する期間の長期化
- ・高齢者のみの世帯の増加
- ・他人による介護を嫌がる
- ・公的介護施設の不足
- ・経済的な問題から介護サービスを利用できない
平均寿命が延びたことで、介護の必要な期間が長期化し、介護する側の年齢も上がっていきます。核家族化によって高齢者のみの世帯が増え、離れて暮らす子に介護を頼みづらいことも、老老介護につながる要因です。
また、「他人に家に入ってほしくない」「他人に介護をしてほしくない」といった理由から、介護サービスを利用せず、高齢の家族が介護を担うといったケースもあります。逆に、本人や家族が介護施設への入居を希望していても、公的施設でなければ費用負担が難しいため、空きがないと入居することができないといったケース、経済的な問題から介護サービスの自己負担分の支払いが難しいといったケースも目立ちます。
増加している老老介護の現状
厚生労働省の調査によると、老老介護は増加傾向にあることが示されています。老老介護は、身体的な負担、肉体的な負担、代役のいないつらさから追い詰められ、共倒れになってしまうリスクがあります。最悪のケースでは、事件に発展することもあり、実際に高齢の介護者が高齢の要介護者を殺害してしまうといった痛ましい事件も起きています。
■老老介護の割合は約6割
同居の主な 介護者年齢階級 |
要介護者等 | |
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(再掲) 65歳以上 |
(再掲) 75歳以上 |
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(再掲)65歳以上 | 59.7% | 57.2% |
(再掲)75歳以上 | 30.7% | 33.1% |
参照:厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」 介護の状況
厚生労働省の「2019年 国民生活基礎調査の概況」による、介護者や要介護者を年齢階級別に分けたデータがあります。65歳以上の要介護者の介護を担っている介護者の年齢層を見ていくと、65歳以上の人が担う老老介護の割合は「59.7%」と6割近くを占めています。また、75歳以上の要介護者の介護者の年齢層が75歳以上のというケースに絞ってみても、「33.1%」と約3割にも及びます。老老介護は珍しいことではなく、一般的となっている状況がうかがえます。
また、これまでの推移を見ても、要介護者と介護者が65歳以上同士、75歳以上同士という割合は、2010年以降、右肩上がりに増えていて、2019年の調査では、過去最高となりました。
■事件に発展することもある
老老介護は、介護者も加齢による体力の低下や持病を抱えていることが少なくなく、介護を代わってもらえる「代役」がいないというケースも多く見られます。そのため、長年の介護によって、身体的にも肉体的にもダメージを受け、共倒れになってしまうリスクがあります。そして、最悪の場合は、事件に発展してしまうことさえあるのです。
実際に、2021年4月、介護疲れによって80歳の妻を72歳の夫が殺害するという痛ましい事件が起きました。夫は2013年頃にがんにかかって闘病中でしたが、2015年に妻が脳梗塞で左半身麻痺となり、2016年頃には歩行困難となってしまった中、自宅で介護を続けていたのです。これは、妻が他人による介護を拒んだことが理由でした。長年にわたる介護で心身ともに疲弊し、限界を感じた状況で、妻が「死にたい」と口にしたことが、殺人に至った直接的なきっかけとなりました。
老老介護の増加により、このような事件が増えてしまうのではないか、といったことが懸念されています。
老老介護の問題点
高齢者が高齢者の介護をする老老介護は、さまざまな問題が起こる要因をはらんでいます。老老介護の主な問題点としては、以下のようなものが挙げられます。
- ・認認介護になる
- ・共倒れする
- ・介護等にかかるお金の問題
- ・外部とのつながりが減る
老老介護から、認知症の要介護者を認知症の人が介護する「認認介護」に移行すると、介護の質の低下や火の不始末などの問題が起こることがあります。また、介護は精神的にも肉体的にも負担が大きいため、高齢者が担う場合には共倒れとなってしまうリスクが高くなります。介護者の認知機能が低下したケースでは、金銭面の管理ができないという問題も生じてきます。さらに、老老介護は、外部とのつながりが減って孤立しやすいため、介護者がストレスによって、うつ状態や認知症になること、運動不足によって身体機能が低下することも問題点となります。
■認認介護になる
「認認介護」とは、認知症の要介護者を、認知症の人が介護することをいいます。老老介護によって、介護者が精神的、肉体的な負担によって強いストレスを抱えたり、介護にかかりきりになって社会的なつながりが減ったりすると、脳の機能の低下によって認知症を発症しやすいとされています。
認認介護は、介護者が認知症によって記憶障害が起きていたり、判断力や認識力が低下していたりする状態で介護を行うため、適切な介護が行われにくいことが問題点です。介護者が要介護者に対して、食事、着替え、排せつなどの世話をしたかどうかが分からなくなってしまうことも考えられます。認知症によって食欲が低下している場合は、低栄養の状態になるというリスクもあります。
また、コンロの火を付けていたことを忘れて火事を起こす、公共料金の支払いを忘れてしまって生活が維持できなくなる、訪問販売などによる詐欺のターゲットになりやすいといった問題も起こり得ます。
■共倒れする
介護は、若い人が担う場合であっても、肉体的にも精神的にも負担が大きいことがあります。ましてや、加齢などにより身体機能や体力の低下している高齢者が担うと共倒れとなってしまい、介護する人がいなくなるというリスクが高くなります。
移動の際に支えたり、着替え、排せつ、入浴の介助をしたりするなどの身体介護は、体力を必要とすることが多いです。高齢者が介護を担うと、介助に時間がかかってしまい、介護者と要介護者のいずれの負担も大きくなることがあります。また、高齢の介護者が筋力の低下により、要介護者の身体をうまく支えることができなければ、要介護者や介護者が転倒し、骨折やケガをしてしまうことも起こり得ます。
また、夜に排せつの介助があるなど十分に休養を取れない状態では、ただでさえ体力が低下しているのに、疲労回復することができません。介護の肉体的な負担の大きさからストレスがたまり、精神的に追い詰められて虐待を招くといった恐れもあります。
■介護等にかかるお金の問題
認認介護でも触れたように、老老介護では、介護者の認知機能の低下によってお金の管理の問題が起きることもあります。公共料金などの引き落としがあることを考えず、銀行の口座から預金を下ろし過ぎてしまうと、引き落としがされないといった事態も起こります。また、キャッシュカードの暗証番号を忘れてしまうと、預金を下ろすことができません。さらには、使っても問題のない生活費の額を超えた高額な買い物をしてしまうと、将来の生活資金に支障をきたす恐れがあります。金銭管理がままならないことにより、生活を維持するのが難しくなることもあります。
あるいは、「年金収入が少ない」「貯蓄が少ない」といった経済的な問題で困窮していたとしても、老老介護によって孤立していることに周囲が気付かず、サポートが及ばないといったケースもあります。
■外部とのつながりが減る
老老介護は、介護者の体力面の問題からも、外出する機会が減少しやすく、外部とのつながりが希薄になることで起こってくる問題もはらんでいます。
介護は、肉体的な負担や精神的な負担が大きいですが、愚痴を聞いてもらったり、大変さを分かち合ったりすることのできる相手がいると、ストレスが軽減されることもあります。しかし、介護に時間を割くことや、体力的な問題から余裕がなくなってしまうことで、友人や趣味の仲間などと会う時間が取れなくなるとストレスを抱え込み、うつ状態や認知症を招くといった恐れがあります。また、外出する機会が減ることで、介護者の運動量が減少し、筋力が低下するなど、身体機能が衰えることも危惧されています。
老老介護の問題の対策・解決策
老老介護によっての問題が起きる前に対策を考え、すでに問題が顕在化している場合は、解決策を講じることが大切です。老老介護による問題の対策や解決策としては、次のような方法が挙げられます。
- ・両親の介護の心配をしているなら現状把握に努める
- ・地域包括支援センターへ相談
- ・老人ホームなどの施設を利用
両親が老老介護の状態になっている場合、無理なく介護を行っているかどうかを、こまめな訪問や電話で確認することが大切です。老老介護など介護に関することは、要介護者が居住する地域を管轄する「地域包括支援センター」で相談することができます。老老介護で要介護者の負担が重い場合は、老人ホームなどの施設の利用を検討すべきです。
■両親の介護の心配をしているなら現状把握に努める
両親の老老介護を心配している場合、無理なく介護ができている状態なのかどうか、現状把握に努めることが望ましいです。なぜなら、「老老介護による負担から、介護者側が身体を壊してしまう」「要介護者が適切な介護を受けられないことで、要介護度が進んでしまう」など、さらに深刻な状態に陥ってしまうと、介護の負担がより大きくなるからです。
老老介護をしている両親と同居することが難しい場合、こまめに様子を見に行ったり、電話で状況を聞いたりするようにしましょう。疲れている様子はないか、掃除や料理などの家事ができているか、話のつじつまが合わないなど認知症が疑われる症状はないか、自宅に引きこもっている状態になっていないか、金銭管理の状況に問題はないか、などといった点をチェックすべきです。また、両親が老老介護をしているケースだけではなく、兄弟や親戚など身内で頼れる人が他にいないケースも同様です。
■地域包括支援センターへ相談
老老介護や認認介護を専門的に扱う行政サービスはありませんが、地域包括支援センターは、65歳以上の高齢者の介護、医療、福祉などに関する包括的な窓口です。65歳以上の高齢者が居住するエリアを管轄する地域包括支援センターで、老老介護などの介護に関することを相談できます。また、利用できる介護サービスの説明を受けたり、どういった介護サービスを受けたらいいのか、アドバイスをもらったりすることも可能です。
すでに介護サービスを利用している場合は、居宅介護支援事業所の担当のケアマネージャーに老老介護の負担を軽減する方法などを相談し、ケアプランを変更するといった対策を取ることもできます。
老老介護を行っている介護者は、子供、親戚、知人などに介護をしていることや状態を伝え、相談できる関係性を築いておけば、孤立状態になることや、さらなる状況の悪化を防ぐことができます。
■老人ホームなどの施設を利用
老老介護で介護者と要介護者が共倒れにならないようにするためには、介護サービスなどといった他人のサービスを受けることも検討すべきです。訪問介護やデイサービスなどの介護サービスを利用することで、介護の負担を軽減する方法もありますが、在宅介護においては、夜間などに家族による介護が必要となるといった問題点が残ります。 しかし、老人ホームなどの施設へ入居すると、老老介護の問題を根本的に解決できます。老人ホームに入居し、適切な介護を受けることで、要介護者の心身の状態が良くなるケースもあります。老人ホームは、在宅介護で問題が生じたときのセーフティーネットとしての役割も持っています。
老人ホームへの入居は、費用面の心配があるかもしれません。しかし、所得によって負担が軽減される制度もあるため、地域包括支援センターなどで一度相談してみましょう。
老老介護は負担が大きいことからも、夫婦で安心して暮らしていくために、老人ホームへ入居するという選択肢もあります。老人ホームによっては、夫婦入居も可能なところもあり、一部の有料老人ホームでは、数が限られているものの、2人部屋が用意されているところもあります。
夫婦での老人ホームへの入居については、『夫婦入居可能な老人ホームもある!費用や夫婦部屋がある施設の探し方を解説』で詳しく解説しています。
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まとめ
老老介護は、介護する側も高齢によって体力や身体機能が低下しているため、介護を担い続けることに無理が生じていくことがあります。介護は、長期にわたって続くことが多いため、無理のない体制を取ることが大切です。介護者の負担が大きい場合は、地域包括支援センターに相談したり、老人ホームなどの施設を利用したりするなどの対策を取りましょう。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)