食事介助のポイント|正しい方法や手順から安全に食べるための姿勢も紹介
2021.6.15
食事は、健康な体を維持するために必要なものですが、加齢によって身体の機能が衰えると、自力で食事を取るのが難しくなることがあります。在宅での介護では、家族が食事介助を担うことになりますが、どのような方法ですればいいのか、不安に感じる方も少なくないのではないでしょうか。そこで、高齢者の食事介助の際の正しい姿勢、介助の手順、おいしく食べてもらうためのポイントなどをまとめてみました。
高齢者の食事介助の目的
「食事介助」とは、自力では食事を上手く食べられない人に対してサポートをすることをいいます。
高齢者は、加齢や脳梗塞など病気の後遺症によって身体機能が低下すると、手を使って自分で食べられなくなったり、あるいは嚥下機能の低下によって食べ物が飲み込みづらくなったりします。また、認知症によって食べ物を認識できないケースも見られます。
こうしたケースでは、安全に食事し、体に必要な栄養を摂取するための食事介助が必要です。
高齢者における食事の重要性
高齢者にとっての食事は、生きていく上での楽しみの一つです。嚥下機能の低下などによって、口からの食べ物の摂取が難しくなると、経管栄養や点滴によって栄養を摂取することになりますが、食べる楽しみを失うことになってしまいます。できる限り、身体の機能を生かし、口から食べる食事を継続することは、高齢者の生活の質の維持につながります。
また、食事を十分に取れないと、健康な状態で体を維持するためのエネルギーやタンパク質が不足し、低栄養に陥るリスクがあります。低栄養の状態になると、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなったり、筋力の低下によって転倒しやすくなったりすることから、寝たきりになってしまうことも考えられます。身体の機能や健康を維持するためにも、高齢者にとっての食事は重要です。
高齢者の食事の特徴
高齢になると、身体の状態が変わるため、食べられる物が変化します。高齢者には、以下のような症状が見られることが多いため、食事への配慮が必要です。
- ・かむ力(そしゃく力)の低下
- ・飲み込む力(嚥下力)の低下
- ・唾液の分泌量の減少
- ・味覚や嗅覚の低下
- ・胃粘液の分泌量の減少や消化機能の低下
高齢者のかむ力や飲み込む力が低下し、通常の食事を取ることが難しくなると、「介護食」へと移行します。介護食には、以下のような種類があります。
介護食の種類 |
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高齢者が食べやすい食事や介護食は、自宅で作ることもできますが宅配食事サービスを利用すると、手軽に身体の状態に合った食事を用意することができます。
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安全に食べるための食事介助の正しい姿勢
食事介助を行うときは、誤嚥に気を付ける必要があります。
本来は、食べ物を飲み込むと、咽頭から食道を経て胃に送り込まれますが、誤って食べ物が気管に入ってしまうのが、誤嚥です。通常は、誤嚥が起こっても、反射的にむせることで、食べ物が排出されます。
しかし、嚥下機能が低下している高齢者が誤嚥してしまい、気道を守るための反射機能も低下していると、異物が肺に残ったままになって、肺の中で炎症が起きる「誤嚥性肺炎」が引き起こされることがあります。
誤嚥のリスクを抑えるためには、正しい姿勢で食事をすることが重要です。食事介助をする際に、要介護者が正しい姿勢を保つためのポイントを、以下のシーンごとにまとめてみました。
要介護者が正しい姿勢を保つためのポイント |
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テーブルといす(車いす)の場合
いすに座って自力で姿勢を保てる場合は、いすや車いすに座った状態で食事を取るのが望ましいです。
いすやテーブルの高さが調整できる場合、いすは腰を深くかけて座り、膝が90度に曲がって床に足が着く高さにします。テーブルは、軽く前傾姿勢を取って、腕を乗せたときに、肘が90度に曲がる高さが適切です。
座るときの姿勢は、スムーズに食べ物が食道に運ばれやすいように、上体をなるべく90度近い角度にし、頭を少し前かがみにして顎を引き、体とテーブルの間に、握りこぶし一つ分の隙間を空けます。背中や後頭部にクッションを挟むと、正しい姿勢を維持しやすくなります。
車いすの場合も、高さや姿勢の考え方は同様です。できればフットステップではなく、床に足が着く状態にします。
リクライニング車いすの場合
リクライニング車いすで食事をするときは、いすに座っている場合と同様の姿勢が取れるように、できればリクライニングの角度を90度近くに調整します。ただし、要介護者の状態にもよるため、45~80度までの間で無理のない角度に調整しましょう。
また、首が後ろに反ってしまわないように、後頭部にはクッションを入れておきます。足は膝を90度に曲げ、フットステップに乗せます。
ベッドの場合
ベッドで食事をするときも、要介護者の状態に合わせ、背もたれを45~80度までの間で調整する点は同様です。例えば、30度といった角度だと、傾きが大きすぎます。また、腰を背もたれにピッタリと沿わせ、後頭部にクッションを入れて首が反らないようにします。足は軽く曲げた状態で、姿勢が安定するようにベッドに沿わせるか、クッションを入れます。さらに、足の裏にもクッションを入れることで、足がずり落ちてしまうのを防ぐことができます。
食事介助の手順
食事介助の方法は、高齢者の身体状況によって異なる部分もあります。例えば、片麻痺の場合は、介助者は障害のない側に座り、食事介助をするときにもそちら側から口に食べ物を運びます。
ここでは、食事介助の基本的な方法をご紹介します。
食事介助の基本的な方法 |
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食事の前には、途中で食事を中断することがないように、あらかじめ排せつを済ませるなどの準備を行っておきます。
誤嚥を防ぐために安全な姿勢を確保した後、嚥下がスムーズになるように、水分補給してから食事を始めます。
一口の分量は、ティースプーン1杯分を目安に、主食、副食、水分をバランス良く口に運んでいくのがポイントです。
食事を終えた後は、健康状態に関わるため、食事量を確認しておきます。そして、最後に口腔ケアを行うなど、必要に応じてサポートします。
①食事前の準備
食事する前に、落ち着いた状態でおいしく食べられるように準備しておきます。食事前の準備 |
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食事の途中で排せつをすると、食事を中断しなければならなくなり、ポータブルトイレの場合は臭いが充満するため、食事の前に排せつを済ませておくことが重要です。口の中を清潔にしておくのは、誤嚥をしたときに肺の中に細菌が入るリスクを軽減するためです。唾液の分泌を促すことで、喉に物が詰まったり、むせにくくなったり、スムーズに食事をしやすくなります。
テレビを付けていると食事に集中できない可能性があり、誤嚥のリスクを高める要因にもなるため、あらかじめ消しておきます。また、要介護者が食事に触れる可能性があるため、手を清潔にしておきます。
②安全な姿勢の確保
食事の前の準備を終えたら、先述した正しい姿勢になるように調整します。そして、介助者は同じ目線で食事介助を行えるように横に座ります。正面に座ると、要介護者が監視されているように感じやすいからです。また、介助者が立ったまま食事介助を行うと、要介護者が介助者を見上げることになり、顎が上がって誤嚥が起こりやすくなるため、必ず座るようにしましょう。
③水分補給
食事を始める前に、水やお茶などで水分補給します。口の中が潤っている状態の方が、嚥下がスムーズになるためです。
④主食・副食・水分をバランス良く
食事介助を始めるときには、汁物など水分の多い物から口に運ぶようにします。汁物からスタートした方が食べやすく、胃酸の分泌の活性化も図れます。その後は、主食、副食、水分を交互にバランス良く食べさせます。同じおかずばかりを食べ続けると、飽きてしまいやすいからです。
一度に口に運ぶ量は、ティースプーン1杯分が目安です。スプーンや箸は、下から口に持っていくと、顎が下がって下向きの状態になるため、誤嚥しにくくなります。一方、スプーンを奥まで入れると、誤嚥の危険や吐き気をもよおすことがあるため、注意が必要です。次々に食べ物を口に運ぶことも誤嚥を招く恐れがあり、飲み込んだことを確認してから、食事を口に運ぶようにします。
また、食べるペースが遅いときに急かしてしまうことも、誤嚥を招いたり、喉を詰まらせたりする要因となります。介助者のペースではなく、要介護者のペースに合わせて食事を進めていくことが大切です。
⑤食事終了後に摂取量を確認
高齢者の食事量は、健康状態に大きく影響するため、食事介助を終えたら、食べた量を確認します。摂取量が少ないことが続く場合は、健康状態に問題がある可能性がある他、低栄養の状態に陥るといったリスクも伴います。
⑥口腔ケア
食後は、歯磨きなどの口腔ケアを行い、口の中を清潔にします。口腔ケアは、口腔内を清潔に保つことで歯周病を防ぎ、口腔機能を維持し、そしゃくや会話などの生活レベルを保つことを目的としています。また、粘膜ケアを行うことで、嚥下が起きたときの反射機能を高めることや、細菌による誤嚥性肺炎のリスクを軽減することも期待できます。
歯を磨くときには、歯ブラシは鉛筆と同じ持ち方をし、歯に対して90度の角度で当てます。歯ブラシを細かく動かし、歯を1本1本磨いていき、歯間や奥歯に磨き残しがないよう、気を付けます。歯茎に当たっても痛くない程度の力で、優しく丁寧に磨くのがポイントです。
残っている能力を生かすため、口腔ケアはできるだけ要介護者本人にやってもらい、介助者のサポートは最小限に留めておくことが大切です。
高齢者においしく食べてもらうためのポイント
食事介助は、ただ食べさせれば良いということではなく、食事が楽しい時間となるように配慮することが大切です。高齢者の食事介助でおいしく食べてもらうためには、以下の3つのポイントがあります。
おいしく食べてもらうポイント |
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食事前の声掛け
食べ物を口に運ぶときに、食事をするという意識がない状況では、喉に食べ物を詰まらせたり、誤嚥のリスクがあったりします。そのため、食事介助を始める前に声掛けをし、「これから食事をする」ということを認識してもらうようにします。
また、食事を口に運ぶ前に献立を説明すると、食べる意欲を持ってもらえて効果的です。「今日のメニューは大好きなカボチャを使ったシチューですよ。おいしそうですね」など、メニュー名や使用している食材などを説明するようにしましょう。
使用するスプーン選び
食事介助に使うスプーンは、ティースプーン程度の小さな物を選びます。小さなスプーンであれば、口の中に入り、要介護者が下を向いて顎が上がらない状態となるため、スムーズに嚥下ができます。
これに対して、大きなスプーンでの介助だと口に入りきれないため、介助者は口の中に流し込もうとし、要介護者はすすってしまいやすいという問題が生じます。その結果、顎が上がって頸部が伸びてしまうことから、むせてしまったり、誤嚥を招いたりしやすく、危険です。
口を開けてくれない場合
食事のときに口を開けてくれないケースには、さまざまな原因があります。例えば、「間食してお腹が空いていない」「苦手な物なので食べたくない」「入れ歯が合っていない」「認知症で食べ物と認識していない」などといったケースが挙げられます。
間食している場合、おやつの量や時間を調整するといった対策を取ります。好き嫌いが多い場合には、本人が好む物で栄養バランスの良い食事になるようにしたり、味付けを変えてみたりするなどの工夫が必要です。入れ歯が合っていない場合は、歯科医に相談します。また、認知症によって食べ物を認識できない場合には、一口目を介助して下唇を当てると「食べ物だ」と認識することができ、口を開くようになることもあります。
ただし、これらの方法で解決するとは限りませんので、いろいろ試してみても状況が変わらない場合は、かかりつけの医師やケアマネージャーなどの専門家に相談しましょう。
食事介助が必要なら施設入居を検討するのも良い
食事介助の基本を解説しましたが、実際のところ、一人一人の身体の状態などによって、介助の大変さは異なり、マニュアル通りにはいかないものです。そしゃく機能や嚥下機能が衰えるほど、誤嚥のリスクが高まり、食事介助の負担も大きくなります。また、食べる速度、食事にかかる時間、好き嫌いの有無などによっても、負担の大きさは違ってきます。
食事介助に限らず、在宅介護の精神的、肉体的な負担が重い場合は、介護疲れで追い込まれてしまう前に、施設への入居を検討してみることも選択肢となります。
あんしん相談室では、全国の老人ホームの入居サポートを行っています。
「在宅介護が大変」という方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
食事介助は、自力で食事のできない高齢者が、健康な状態を保つために不可欠なものです。また、口から食事を取ることは、日々の生きがいや生活の質を維持することにつながっていきます。ただし、正しい姿勢や方法で行わなければ、誤嚥のリスクが高まってしまうため、適切な介助を行うように心掛けましょう。
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記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)