介護にかかる費用の平均相場|在宅と施設ではどのくらい違うのかを比較
2021.7.12
介護にかかる平均費用は条件によって異なる
介護にかかる平均費用は、条件によって大きく異なります。施設への入居、ヘルパーによる訪問介護、デイサービスなどを利用した在宅介護では、費用に差があります。 施設入居の場合、特別養護老人ホームなどの公的介護施設と民間の有料老人ホームでは、費用の差が大きいです。
また、要介護度が上がるほど、介護費用の負担は大きくなります。さらに、介護保険による介護サービスは、所得に応じての自己負担額が1~3割と決められていることから、収入によっても、介護にかかる費用が異なります。
在宅介護と施設介護の費用を比較
自宅で介護をするか、老人ホームなどの介護施設へ入居するかを検討する際に、費用の目安となるよう比較表にまとめてみました。
介護の方法 | 月額の目安 |
---|---|
在宅介護 | 3万3千~7万5千円 |
施設介護(公共型施設) | 6万~20万円 |
施設介護(民間型施設) | 13万~35万円 |
在宅介護と施設介護を費用面だけで決めるのは、早計です。在宅介護と施設介護では、家族の負担の大きさが異なります。在宅介護は、介護サービスを利用したとしても、多かれ少なかれ家族による介護も必要となり、深夜は家族が介護をすることとなります。家族が心身的な負担から共倒れになることや、介護離職をしなければならない事態も起こり得ます。
また、家族は介護のプロではありませんが、施設においては介護の専門家によるケアが受けられることも異なる点です。
一方、在宅介護は住み慣れた自宅で暮らし続けることができます。
在宅介護と施設介護では、自宅での生活や家族による介護を本人が望んでいるかどうか、介護を必要とする度合い、無理なく家族で介護を担える体制を取れるかどうかといった点から検討することが望ましいです。
■在宅介護にかかる費用
在宅介護にかかる平均費用は、1カ月当たり5万円で、平均介護期間は4年7カ月です。
在宅介護にかかる費用は、介護保険による介護サービスの自己負担額と、その他の費用で分けられます。
また、介護保険による介護サービスは、要介護度によって利用限度額が決められていることから、利用限度額を超過した分は、全額自己負担となります。
在宅介護の平均費用の5万円の内訳としては、介護保険サービスの自己負担額1万1千円、利用限度額の超過分の全額自己負担額5千円、その他の費用3万4千円です。
要介護認定1 | 3万3千円 | 要介護認定2 | 4万4千円 |
---|---|---|---|
要介護認定3 | 5万9千円 | 要介護認定4 | 5万9千円 |
要介護認定5 | 7万5千円 | 合計平均 | 5万円 |
在宅介護にかかる費用は、要介護度による違いもあり、介護が必要な度合いが高いほどかかります。
介護保険による介護サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要があります。要介護認定に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
<関連記事>
要介護認定とは|要支援との違いなどの基本知識から申請方法や更新について解説
■施設介護にかかる費用
老人ホームなどの施設介護は、入居する施設によって費用の差が大きくなります。介護施設は、次の2つに大きく分けられます。
- ・公共型施設
- ・民間型施設
民間型施設よりも公共型施設の方が比較的費用が安く、月額費用は6万~20万円程度です。民間施設は、13万~35万円程度かかります。施設介護は在宅介護よりも費用がかかりますが、家族の介護の負担を軽減し、整備された安全な環境で24時間、介護のプロによる適切なケアを受けられるというメリットがあります。特に、要介護度が高い場合や、認知症にかかっている場合には、専門的なケアが受けられるという大きなメリットがあります。
【公共型施設】
「公共型施設」には、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、軽費老人ホームなどがあります。
「特別養護老人ホーム」は、原則として要介護3以上の人を対象とし、24時間介護を受けられ、看取りの対応もしています。「介護老人保健施設」は、病気やけがで入院した後、要介護1以上で医療ケアやリハビリテーションが必要な人が在宅復帰を目指すための施設で、3カ月ごとに入退所判定が行われ、終身利用はできません。
「軽費老人ホーム」のケアハウスには「一般型」と「介護型」があります。一般型は、一人で生活するのが難しい60歳以上の人が入居できる施設で、要介護による制限はありません。食事の提供、安否確認、生活相談のサービスが提供されますが、介護が必要となった場合は、外部サービスを利用することとなります。介護型は、要介護1以上の人が入居でき、施設のスタッフによる介護サービスが提供されます。
【民間型施設】
「民間型施設」には、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などの種類があります。
有料老人ホームは、レクリエーションやイベントが充実している施設が多く、高級志向の施設もあるなど、多様な選択肢から選ぶことができます。
「介護付き有料老人ホーム」は、要介護1以上の人のみが入居できる施設、自立した人のみを対象とする施設、両方を受け入れる施設に分かれます。介護が必要な場合、施設のスタッフによる介護サービスが受けらます。
「住宅型有料老人ホーム」は、基本的に自立した人から介護を必要とする人まで入居できる施設です。食事や生活支援サービスが提供され、介護が必要になった場合には、外部サービスを利用する形となります。
「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、安否確認サービスと生活相談サービスの提供が義務付けられたバリアフリー仕様の賃貸住宅です。サ高住は、介護が必要になった場合に外部サービスを利用する一般型の他、施設スタッフによる介護が受けられる介護型の施設も一部あります。
老人ホームの費用に関する詳しい内容は、以下の記事でご紹介しています。
介護費用でよくある問題
親が介護費用を自分で賄う場合、年金などの収入や預貯金がないケース、兄弟の中で特定の人のみが介護費用を支払っているケースなど、「誰が負担するのか」といった介護費用を巡る問題が起こりがちです。
また、親が想定よりも長生きしたことで、介護費用が支払えなくなるといったケースもあります。
- ・親の介護費用は誰が負担すべきなのか?
- ・親の介護費用を出さない兄弟に請求できるか?
- ・介護費用を払えない)
■親の介護費用は誰が負担すべきなのか?
親の介護費用は、親本人の収入や預貯金などから賄うのが基本です。
介護は、何年続くか分からないものであり、長期間にわたって介護費用が必要となることもあります。子が介護費用を負担すると、自分自身が介護を必要とする状態になったときに、介護費用が捻出できないといった事態になりかねません。
子が親の介護費用を負担するのは、親の収入や預貯金などで介護費用が賄えないといったケースで、無理のない範囲までとすべきです。
■親の介護費用を出さない兄弟に請求できるか?
親から見た子は「扶養義務者」に当たるため、経済状況に応じて生活の余力の範囲内で扶養する生活扶助義務があります。そのため、親の介護費用を出さない兄弟に対して、相応の負担を求めることが可能です。
まずは、介護費用を明確にし、負担割合や負担額を決めるなど、話し合いによる解決を図ります。
兄弟の経済状況によっては、月々に負担できる額を尋ねるなど、歩み寄ることも大切です。
兄弟での話し合いによる解決が図れなかった場合は、家庭裁判所に「扶養請求調停」を申し立てます。扶養請求調停では、調停委員を交え、生活状況や経済状況を整理しながら話し合いが行われます。
調停で合意に至らなかった場合には、審判の手続きに移行し、裁判官が取り決めた事項に従うこととなります。
■介護費用を払えない
介護施設に入居中に介護費用を払えない場合、通常、すぐに退去を求められることはなく、1~2カ月程度の猶予が認められます。入居者本人に支払い能力がない場合には、身元引受人(連帯保証人)に請求がいくことになります。
継続して介護費用の支払いが難しい状況となった場合には、強制退去となる前に対処法を講じることが必要です。
解決策としては、次のような方法が考えられます。
- ・費用の安い施設に移る
- ・介護ローンを利用する
- ・生活保護を受給する
有料老人ホームに入居していて、入居一時金の未償還期間が残っている場合は、退去することで未払い費用や原状回復費用を相殺した残りが返還されます。そのため、月額費用の安い施設を探し、入居一時金や月額費用に充てることが可能です。また、次の介護施設の入居一時金は、介護ローンを利用して支払う方法もあります。
有料老人ホームは、施設によって費用の差が大きいため、特別養護老人ホームや軽費老人ホームから公共型施設に移ることによっても、月額費用を抑えることができます。
また、生活保護を受給し、生活保護の受給者の入居を受け入れている施設に移るといった方法もあります。
介護費用を軽減するための制度
介護費用の負担を軽減するために、公的な制度が設けられています。ここでは、以下の制度についてご紹介します。
- ・介護保険
- ・特定入所者介護サービス費
- ・家族介護慰労金
- ・医療費控除
「介護保険」は、65歳以上の要支援状態や要介護状態にある人などが1~3割の自己負担で介護サービスを利用できる制度です。
「特定入所者介護サービス費」は、所得などが一定以下の人に対し、特別養護老人ホームなどでの居住費や食費を軽減するものです。
「家族介護慰労金」は、原則として、介護保険による介護サービスを利用せず、在宅介護を行う家族に対して支給されます。「医療費控除」は、一部の介護サービスも医療費としての対象となります。
■介護保険
「介護保険」は、65歳以上の第1号被保険者が要支援状態や要介護状態になった場合と、40~64歳の第2号被保険者が老化に起因する16の特定疾病により要支援状態や要介護状態になった場合に、利用することができます。
介護保険による介護サービスは、在宅介護で利用できる「居宅サービス」と、施設に入居して受けられる「施設サービス」などに分類されます。介護サービスを利用する際の自己負担額は、所得などに応じて1~3割です。
介護保険の制度に関する詳しい内容は、以下の記事でご紹介しています。
<関連記事>
介護保険とは|制度の仕組みなどの基本をわかりやすく解説
■特定入所者介護サービス費
「特定入所者介護サービス費」とは、公共型施設の特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院に入所する場合に、所得や資産が一定以下の人に対して、自己負担限度額を超える居住費と食費が支給される制度です。
負担限度額は、施設の種類、部屋タイプ、所得によって異なります。
特定入所者介護サービス費の支給を受けるには、市区町村で申請を行い、負担限度額認定を受ける必要があります。
■家族介護慰労金
「家族介護慰労金」とは、介護保険による介護サービスを利用せず、1年以上在宅介護を行っている住民税非課税世帯の家族に対し、年額10万~12万円を支給するものです。
支給要件は、自治体によって異なり、支給を行っていない自治体もあります。
介護を受ける要介護者の要件は、要介護4または要介護5とする自治体が中心ですが、自治体によっては要介護3や要介護2で認知症にかかっているケースも対象となります。
また、7日以内、もしくは10日以内のショートステイの利用が認められている自治体が多い一方、90日を超える入院をしていないことを要件とする自治体も目立ちます。さらには、同居や隣地への居住といった要件もあります。
家族介護慰労金の支給を受けるには、市区町村の窓口での申請が必要です。窓口やホームページなどで詳しい支給要件を確認しましょう。
■医療費控除
「医療費控除」とは、1月1日~12月31日までに本人や生計を同一とする家族のために支払った医療費の合計が一定額を超える場合、所得控除を受けられるものです。
医療費控除の対象となるのは、医療費から保険金で補填された額を引いた額で10万円、あるいは所得が200万円以下の人は、総所得の5%を超えた分が対象となります。
医療費-保険金で補填された金額-10万円(所得が200万円以下の人は総所得の5%)=医療費控除額
医療費控除の対象となる医療費には、医療機関での診療費、入院費、治療のために購入した薬の代金、医療機関・介護施設への移動の際に利用した電車・バスなどの交通費、けがや病気の治療のための国家資格の有資格者によるマッサージ、鍼灸の費用などです。
介護保険による介護サービスも対象となり、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などの介護費、食費、居住費が含まれます。
一方で、健康増進のためのビタミン剤の購入費用、リラクゼーション目的のマッサージは、医療費に該当しません。医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。
まとめ
介護は長期にわたる可能性があることから、介護費用は要介護者本人の年金などの収入や預貯金で賄うのが基本です。「シニアのあんしん相談室」を利用すると、心身の状態や介護費用など、それぞれの希望条件に合った施設の紹介を受けることができます。施設介護や在宅介護よりも介護費用はかかりますが、家族の負担を軽減し、介護のプロによる専門的な介護が受けられるというメリットがあります。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)