ターミナルケアとは|終末期の緩和ケアや看取りも対応する施設についても紹介
2021.9.28
悲しいことではありますが、家族とお別れをしなければならない時は、いつかはやってきます。しかし、家族が死を目前にした時でもできることはあります。ターミナルケアは、終末期を迎えた時に、生活の質を向上させることを目的に行われる医療などによるケアのことです。そこで、ターミナルケアとは何か、ターミナルケアを受けるに当たっての大切なこと、ターミナルケアを受ける場所などについて紹介します。
ターミナルケアとは
「ターミナルケア(終末期医療)」とは、病気、けが、障害、老衰などによって終末期を迎えた人に対して行う、医療・看護・介護のケアのことをいいます。ターミナルケアは、苦痛や不快な状態を緩和することで生活の質を向上させ、できるだけ穏やかに過ごせるようにすることを目的としています。そのため、ターミナルケアでは、痛みを伴う治療による延命を行わないのが基本です。
ターミナルケアを始める時期は、本人の意思によりますが、本人が意思表示をするのが難しい状態の場合は、家族の意思を基に医療機関と相談する形になります。がんなどの病気の場合には、治療の効果が期待できなくなって余命を推測された時、老衰や認知症の場合には、寝たきりの状態で介助をしても食事を摂れなくなった時にターミナルケアが開始されることが多いです。
ターミナルケアは、主に次の3つのケアに分けられます。
- ・身体的ケア
- ・精神的ケア
- ・社会的ケア
■身体的ケア
「身体的ケア」は、主に医療従事者によって行われるものです。特にがんの場合は、終末期に痛みが生じやすく、身体的ケアとしては投薬による痛みの緩和が中心です。痛みによって眠れないことや、身体を思うように動かせなくなって精神面に影響することもあります。そこで、投薬を行うことで、少しでも穏やかに過ごせるようになります。
食事が取れなくなった場合は、点滴や経管栄養といった栄養補給の処置を取られることがあります。経管栄養は、チューブなどを用いて鼻から胃などに栄養を送る方法です。胃に穴を開ける場合は「胃ろう」、腸に穴を開ける場合は「腸ろう」と呼ばれています。ただし、栄養補給は延命措置でもあり、本人・家族の意思を確認した上で行われます。
寝たきり状態の場合は、床擦れを防止するためのケアや、床擦れの治療が必要です。在宅介護の場合は、排せつや入浴の介助を適切に行うことで快適に過ごせるよう、訪問介護を利用することも選択肢となります。
■精神的ケア
「精神的ケア」は、医療従事者も家族も担うことができます。死を目前にすると、不安や恐怖にさいなまれたり、残される家族を心配したり、精神的に不安定な状態になりやすいです。精神的ケアによって、死に対する不安や恐怖をなくすことは難しいですが、感情に寄り添うことで安心して過ごしてもらえるようにします。
精神的ケアでは、一人で死に向かう孤独感を感じないように、話を聞いたり、家族や友人と過ごす時間を取ったりすることが大切です。特に、家族の大黒柱、家事を担っていた人、職場で責任ある立場にいる人などは、周囲に迷惑をかけることや、これまでの立場を失うことへの喪失感に苦しむ傾向があります。ネガティブな思考に陥らないよう、コミュニケーションを取ることが重要です。
また、ベッドの周りに気に入っている物や思い出の品を置いたり、好きな音楽をかけたりするなど、リラックスして過ごせるように、居住環境を整備します。
■社会的ケア
「社会的ケア」は、経済的な問題に対するケアのことで、家族や専門家が担います。ターミナルケアを受けることによる費用負担は、精神的な負担になりやすく、特に、一家の大黒柱として働いてきた人ほど「お金のかかることが家族に申し訳ない」という思いにかられやすいです。本人が思い詰めないように、家族がコミュニケーションを取ることが大切です。実際に医療費が負担になっている場合、病院のソーシャルワーカーに軽減する方法などを相談します。また、遺産相続や遺品整理など、亡くなった後に向けたサポートも社会的ケアに含まれます。
緩和ケア・看取りケア・ホスピスケアとの違い
ターミナルケアに似たものとして、「緩和ケア」「看取りケア」「ホスピスケア」などがありますが、目的などに違いがあります。それぞれの特徴と、ターミナルケアとの違いについて説明します。
- ・緩和ケア
- ・看取りケア
- ・ホスピスケア
■緩和ケアとは
「緩和ケア」は、がんやエイズなど生命を脅かす病気の患者に対し、進行度に関わらず、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛を緩和するためのケアのことをいいます。「QOL(Quality of Life=生活の質)」の維持向上を図り、自分らしい生き方を続けられるようにするのが目的です。
がん治療においては、緩和ケアとして痛みがある場合には、診断段階から鎮痛剤を処方され、がん告知による落ち込みに対しての心理的なサポートが行われます。抗がん薬の投与や放射線治療による副作用の緩和も、緩和ケアに含まれます。
ターミナルケアは終末期に行われるのに対し、緩和ケアは終末期に限らず、初期から治療と並行して行われるという違いがあります。また、ターミナルケアは高齢者を対象とすることが多いのに対し、緩和ケアは年齢を問いません。終末期に行うターミナルケアは、緩和ケアの一部であるといった捉え方もできます。
■看取りケアとは
「看取りケア」は、死が近づいている人に対し、身体的な痛みや精神的な苦痛を緩和しながら、人間としての尊厳を保った生活を最期まで送れるように支援することをいいます。看取りケアは、主に介護施設に入居している人や、在宅介護を受けている人が対象です。
かつて終末期は、身体中に機器を着けて病院のモニターで監視を行い、管から栄養を補給するという状態が一般的でした。しかし、「人間としての尊厳を保てない」といった考えから、医師の指示によって痛みを緩和する処置を行い、自宅や施設で静かに死を迎えることをサポートする「看取り」という考え方が広まりました。施設での看取りケアは、本人・家族の同意の下で行われます。
ターミナルケアは「終末期医療」といわれるように終末期の医療や看護を中心としたものですが、看取りケアは介護からのアプローチで食事や排せつの介助などといった「日常生活でのケアが中心」といった違いがあります。
■ホスピスケアとは
「ホスピスケア」の「ホスピス(hospice)」とは、「hospitality:親切なもてなし」「organized care:組織的なケア」「symptom control:症状のコントロール」「psychological support:精神的なサポート」「individualized care:個別性の尊重」「communication:コミュニケーション」「education:教育」の頭文字を取った言葉です。
ホスピスケアは、1967年にイギリス・ロンドンの施設で、専門家によるチームによって末期がん患者の苦痛を取り除くためのケアとして行われたことが始まりであるとされています。
ホスピスケアは、ターミナルケアと同様、治療による効果が見込まれなくなった時から終末期にかけて実施され、身体的ケア、精神的ケア、社会的ケアを行います。ターミナルケアとホスピスケアは似た概念ではありますが、ホスピスケアは、痛みの緩和を目的としていることや、「ホスピス」と呼ばれる専門の施設で行うといった違いがあります。
ターミナルケアを受けるときに大切なこと
ターミナルケアは、人の死や人生の最期の在り方に大きく関わるものです。ターミナルケアを受けるときには、死について後悔のない意思決定を行い、本人・家族が納得のいく最期を迎えられるよう、以下の2点をよく話し合っておくことが大切です。
- ・最期をどこで過ごすのか考える
- ・医療方針や延命措置について決めておく
■最期をどこで過ごすのか考える
どこで最期の時を過ごすことにするか、主に病院、介護施設、自宅の中からターミナルケアを受ける場所を決めておきます。本人がどこで過ごしたいのかという点が重要ですが、特に自宅を希望する場合は、家族が対応できるかどうか、24時間の医療・介護の体制を組めるかどうかといった点がポイントとなります。そこで、ケアマネージャーや地域包括支援センターに相談し、利用できるサービスについて調べておくことも必要です。
■医療方針や延命措置について決めておく
ターミナルケアを受ける際には、万が一容体が悪化した際に慌てないよう、医療方針や延命措置について決めておくことも大切です。介護施設や在宅でターミナルケアを受ける場合は、容体が急変した時に医療機関への搬送を行うかどうかといったことも、決めておく必要があります。
また、何も準備せずに自宅で死を迎えると、「不審死」扱いされる可能性もあるため、本人の意思が確認できる場合は、医療方針や延命措置に関する同意書を作成しておくことが望ましいです。本人の意思が確認できない状態の場合は、家族で十分に話し合って方針を決めた上で、最終的な意思決定を行う代表者を決めておきましょう。
ターミナルケアを受ける場所
ターミナルケアを受けられる場所はいくつかありますが、主な場所としては次の3つが挙げられます。
- ・病院
- ・介護施設
- ・在宅
病院、介護施設、在宅では、対象者や医療・看護体制、費用などが異なります。また、家族と一緒に過ごせる時間、家族の負担の大きさにも違いがあります。
■病院
病院でのターミナルケアは、医療行為を行わずに看取りのみを目的としている場合には受けることができません。病院のターミナルケアは、基本的に緩和ケア病棟で緩和ケアを受けることが前提となるため、がん患者やエイズ患者が対象となります。
病院でのターミナルケアでは、常駐している医師や看護師が身体の状態を常に把握している状態のため、容体が急変した際にも速やかに適切な処置が行われる点がメリットです。また、日常生活上のケアも病院に任せられることから、家族の負担も軽減されます。
一方、臨終が近い時を除き、基本的に限られた面会時間のみしか家族と過ごす時間が確保できず、常に一緒にいられない点がデメリットです。本人が家族と離れて過ごすことで不安や孤独を感じたり、家族の心配が募ってしまったりする可能性があります。また、本人の生活の自由度が高くないため、リラックスして過ごしにくいです。さらには、医療費の経済的な負担が大きくなるケースもあります。
■介護施設
ターミナルケアを行っているのは、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設です。厚生労働省による医療・介護体制の基準を満たしている施設には、介護報酬で看取り介護加算があります。看取り介護加算の対象の施設以外でも、ターミナルケアを受け入れている施設はありますが、看取り加算は対応体制を推し量る目安となります。
介護施設でターミナルケアを受ける場合は、日常生活のケアが介護のプロによって行われるという安心感があることがメリットです。家族は介護を担わないことで、精神的・肉体的なゆとりが生まれます。また、他の入居者やスタッフなどともコミュニケーションを取ることができます。
一方、家族の面会時間は、制限されている点がデメリットです。介護施設は生活をするための施設ですが、自宅ほどリラックスして過ごしにくいことも考えられます。また、ターミナルケアが長期化すると、経済的な負担が大きくなります。
ターミナルケアが可能な老人ホーム・介護施設は、以下から検索できます。
■在宅
在宅でターミナルケアを受ける場合は、24時間の医療・介護体制を整えることが望ましいです。在宅医・訪問看護による医療体制、ケアマネージャー・訪問介護などによる介護体制を整えるため、ケアマネージャーや地域包括支援センターに相談して在宅医を探す、あるいはかかりつけ医に往診が可能か確認するなど、看取りに対応できる医師の確保が必要です。
在宅でのターミナルケアは、家族と一緒に過ごせるため、思い出作りなどができる点が大きなメリットです。生活の自由度が高く、好きなようにリラックスして過ごせます。また、家族が「病院や施設で寂しい思いをしていないだろうか」といったことを心配せずに済みます。
一方で、介護サービスを利用しても、家族が介護を担うシーンは発生するため、負担が大きくなりやすい点がデメリットです。そのため、家族が仕事を休んだり、辞めたりしなければならないケースも見られます。また、容体が急変した時に、すぐに医師が対応できないこともあります。
また、在宅介護が長引くと、介護疲れに陥る危険性があり、以下で詳しく紹介しています。
まとめ
ターミナルケアは、終末期を迎えた時に痛みを軽減してQOLを維持し、なるべく穏やかに過ごせるようにすることを目的としています。ターミナルケアを受けるには、病院、介護施設、在宅という選択肢があります。本人の意思を尊重しつつ、納得のいく形で最期を迎えられるよう、家族で十分に話し合っておきましょう。
目的 | ターミナルケアとの違い | |
---|---|---|
ターミナルケア | 苦痛や不快な状態を緩和することで生活の質を向上させ、できるだけ穏やかに過ごせるようにすること | 終末期に行われる 終末期の医療や看護が中心 |
緩和ケア | QOLの維持向上を図り、自分らしい生き方を続けられるようにすること | 初期から治療と並行して行われる |
看取りケア | 身体的な痛みや精神的な苦痛を緩和しながら、人間としての尊厳を保った生活を最期まで送れるように支援すること | 日常生活のケアが中心 |
ホスピスケア | 専門家によるチームによって末期がん患者の苦痛を取り除くためのケア | 「ホスピス」と呼ばれる専門の施設で行う |
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)