介護離職とは|増加している原因と離職するデメリットや離職防止対策についても紹介
2021.9.6
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介護離職とは
「介護離職」とは、家族や親族の介護と仕事を両立することが難しくなり、仕事を辞めることをいいます。介護離職は、日常的に介護が必要な状態となり、勤務時間の問題から仕事との両立が困難になることや、体力面での厳しさなどが主な要因として挙げられます。しかし、介護離職は収入の減少にも直結するため、経済的な不安を抱えることになるケースが少なくありません。
■介護が理由の離職率
総務省統計局の「平成29年(2017年)就業構造基本調査」によると、全国で介護をしている人は627万6000人で、そのうち346万3000人が働きながら介護を行っています。
また、離職率を見ていくと、過去1年間に離職した人のうち、介護を理由とする人は9万9100人で、離職した人に占める割合としては1.8%です。平成19年(2007年)の調査と比較すると、介護を理由とした離職は減少傾向にあるものの、平成24年(2012年)と平成29年(2017年)ではほぼ横ばいであることから、毎年約10万人が介護離職を選択していることがうかがえます。また、介護離職した人の4分の3程度が無職であることからも、介護離職の問題は深刻な状況であるといえます。今後、高齢化が進むにつれて、介護を理由とした離職が増加しないよう、対策を取っていくことが急務となっています。
■介護離職の理由・原因
介護離職の主な要因の理由の一つとしては、介護と仕事の両立が難しくなったことが挙げられます。介護レベルが高くなって、介護にかかる時間が長くなっていくと、介護をしながら会社で決められた出勤時間や退社時間合わせて働くことが難しくなります。勤務先や上司によっては、介護への理解を得られず、介護休暇や有給休暇を取得しづらいことも、介護離職の原因となります。
また、「介護と仕事の両立に体力的な限界を感じた」というケース、「介護しながら仕事を続けた結果、身体を壊したため離職に至った」というケースも見られます。この他、「介護に専念したいと考えて、離職に踏み切った」「介護施設への入居を希望しても空きが出ないため、離職した」といった理由も挙げられます。
介護の負担は大きく、大変なため、さまざまな事情から介護離職せざるを得なくなることがあります。
【良かったと思える】介護離職のメリット
介護離職は、ネガティブなイメージで捉えられがちですが、「仕事を辞めて良かった」と思う場面もあるなど、メリットもあります。介護離職によるメリットとしては、主に次の2点が挙げられます。
- ・心身の負担を軽減できる
- ・介護にかかる費用を軽減できる
介護離職することによって、介護に専念できる状況になり、介護と仕事の両立による負担がなくなるため、心身の負担を軽減できます。また、自らが介護を担うことで介護サービスの利用が減ると、介護にかかる費用も軽減できます。
■心身の負担を軽減できる
介護離職によって仕事との両立に悩むことがなくなり、心身の負担を軽減できることは、大きなメリットです。介護は、ただでさえ肉体的な負担や精神的な負担が大きいことがありますが、仕事をしているとさらに負担がかかり、自分のための時間が取りづらくなります。
介護と仕事を両立している状況では、朝、食事の世話をしてから出勤するため忙しかったり、定時まで仕事を終わらせるために焦ったりすることもあるのではないでしょうか。あるいは、会社にいるときに要介護者を家で一人にしていることが心配になったり、帰宅後に仕事のことが気になったりすることも考えられます。
また、「残業を避けるために朝早く出勤する」「帰宅してから夜中にかけて仕事する」といったことを続けていると、肉体的な疲労が蓄積していきます。
そこで、介護離職し、介護に専念できるようになることで生活に余裕が生まれ、心身の負担も軽減できるのです。
■介護にかかる費用を軽減できる
介護離職によって、介護サービスを利用する頻度を減らすと、介護にかかる費用を軽減できることもメリットとして挙げられます。仕事しながら介護している状況では、訪問介護やデイサービスなどの介護サービスを利用しなければ、要介護者の生活を維持することができません。しかし、介護離職によって介護に専念できるようになれば、ほとんどの介護を担うことが可能となります。
【後悔することもある】介護離職のデメリット
介護離職は、良いことばかりではなく、「仕事を辞めなければ良かった」と後悔するケースもあります。介護離職によるデメリットとしては、主に次の3点が挙げられます。
- ・収入が減少する
- ・再就職が難しくなる
- ・介護に付きっきりになるストレスる
介護離職によって、生活費は親などの年金収入や貯蓄に頼ることになり、収入の減少から精神的に追い詰められてしまうことがあります。介護が落ち着いた段階で再就職を考えたとしても、キャリアを中断したことで思うように就業先が決まらないケースも少なくありません。また、介護だけの生活になってしまうと、付きっきりで介護することによるストレスも生じます。
■収入が減少する
介護離職は、収入の減少が大きなデメリットとして挙げられます。介護離職した後は、親などの年金収入や貯蓄を取り崩して生活することになります。介護に専念する期間が長くなるにつれ、「将来的に困窮するのではないか」という不安から、精神的に追い詰められていく可能性があります。あるいは、夫婦の年収が低い方など、いずれかが離職して親の介護にあたる場合には、世帯年収が下がることになります。また、介護離職することで、退職金や将来の公的年金の受給額が減少する点も踏まえておくべきです。
一方で、介護離職の場合、雇用保険の失業給付をすぐに受け取れる可能性があります。親が30日以上の期間、介護が必要な状態が続くために退職する場合は、雇用保険の特定理由離職者に該当するケースがあります。特定理由退職者に該当すると、通常、失業給付を受給するには離職前の2年間に1年間の被保険者期間が必要なのに対し、離職前の1年間に6カ月以上の被保険者期間があれば受給資格を得ることができます。また、自己都合退職による3カ月間の給付制限がなく、7日間の待機期間を経て失業給付を受け取ることが可能です。ただし、雇用保険の失業給付の受給日数は変わらないため、将来に不安を残すことには変わらないといえます。
■再就職が難しくなる
介護離職すると、これまで築いてきたキャリアを中断することになってしまいます。一般的に、転職活動ではブランクが生じると不利となります。昨今は世の中の変化が速く、年単位でのブランクがあると、これまでの経験やスキルが通用しにくくなります。そのため、仕事にやりがいを感じていたとしても、これまでのキャリアを継続するのが難しく、年齢を重ねるにつれて未経験の分野への転身も難しいことから、再就職先が見つかりにくくなってしまうのです。
■介護に付きっきりになるストレス
介護離職することで、介護や家事だけの生活になると、ストレスを感じやすくなってしまうことも、デメリットとして挙げられます。付きっきりで介護していると、話す相手が要介護者などの家族が中心となり、生活に変化が生まれません。
慣れない介護で思うように介助できない自分にいら立ちを覚えるケースもあります。特に、介護サービスを利用せず、全ての介護を自身で担っている状況では、自分の時間も取れなくなってしまいがちです。
さらには社会とのつながりが希薄となり、悩みを一人で抱えてしまいやすい状況になってしまいます。そのため、要介護者との人間関係が良好であったとしても、イライラしてストレスをためてしまう可能性があります。
【介護と仕事を両立する】介護離職しないための方法
介護離職すると、収入の減少や再就職の難しさから、将来に不安を残すことになりかねないというデメリットがあります。「経済的な不安がなく、積極的な気持ちで介護に専念したい」というケースでない限りは、介護と仕事を両立し、介護離職しないための方法を模索していくことが望ましいです。
介護離職をしないためにも、次の2つの点から考えていきましょう。
- ・家族との話し合い
- ・老人ホーム・介護施設の検討
■家族との話し合い
在宅介護を続けて介護離職を避けるためには、まずは家族で話し合い、介護を一人に任せきりにするのではなく、分担して協力する体制を取れるようにすることが大切です。一人で介護を担う場合は、仕事との両立が難しくても、分担することで無理なく仕事を続けられる可能性があります。
家族との話し合いでは、まず、介護を中心的に行う主介護者を決めます。これまで介護を担っていた人が引き続き主介護者を担う場合でも、他の兄弟と曜日を決めて介護を分担する、週末は交代する、介護するのが難しくてもお金を出すなど、何かしらの役割を担うようにします。
■介護サービスの利用
家族だけで介護を担うのではなく、介護保険による介護サービスを利用することで、負担が軽減され、仕事を続けていきやすくなります。介護保険による介護サービスには、大きく分けて「居宅サービス」と「施設サービス」があります。
■居宅サービス
「居宅サービス」は、自宅に住んだまま提供を受けることのできるサービスのことで、介護スタッフが訪問して生活支援や身体介助を行う「訪問サービス」、施設で日中を過ごす「通所サービス」、短期間施設に入所する「短期入所サービス」といった種類に分けられます。介護レベルが高くない場合や、家族で介護を分担できる場合は、居宅サービスを利用するという選択肢もあります。
一方で、介護レベルが高い場合や、他の家族の協力を得ることが難しい場合などは、老人ホームなどの「施設サービス」の利用を検討しましょう。老人ホームなどの介護施設へ入居することで、介護の負担を大幅に軽減できるとともに、要介護者自身もプロによる適切な介護を受けられるというメリットがあります。
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介護離職防止のために行われている対策
介護離職が社会問題となっていることから、介護離職を防止するための対策が取られています。介護離職を避け、介護と仕事を両立していくためには、こうした制度を把握しておくと良いでしょう。
以下、介護離職を防止するために設けられている対策を紹介します。
- ・国の支援制度
- ・企業の支援制度
介護離職を防止するため、国では育児・介護休業法などによる支援を行っています。また、一部の企業では、介護休業や介護休暇などを取得しやすい環境の整備、相談窓口の設置などが進められています。
■国の支援制度
国では、介護と仕事の両立を支援するため、育児・介護休業法による支援制度を設けています。介護休業の対象となる家族1人につき、通算93日までの取得が可能で、3回まで分割することもできます。介護休暇は、対象となる家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日を上限に、時間単位で取得することが可能です。
介護休暇については、『介護休暇とは|制度利用の条件・賃金の有無・介護休業との違いを解説』で詳しく解説しています。
また、事業主は、家族を介護する労働者に対し、所定労働時間の短縮等の措置として、短時間勤務制度、フレックスタイム制、時差出勤制度、介護サービス費の助成のいずれかの措置を講じることが義務付けられています。この他、事業主に請求することで、所定労働時間を超える労働の免除、1カ月で24時間、1年150時間を超える時間外労働の免除、深夜業の免除などを受けられます。
さらに、介護休業する場合は、一定の要件を満たしていると、雇用保険による介護休業給付を受給することが可能です。受給額は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」です。
■企業の支援制度
介護離職によって人材を失うことは、企業にとっても打撃となるため、独自の制度を設け、介護離職を防止する企業も増えています。
国による介護支援制度があっても、そのことを従業員が知らなかったり、利用を言い出しづらかったりする状況では、活用が進まないため、企業側が制度の周知や労働環境の整備に努めることが大切です。企業全体で長時間労働の是正に取り組んだり、業務のマニュアル化を進めたりすることで、介護休業、介護休暇の取得、短時間勤務制度の利用などのしやすい環境が構築できます。また、介護などに関する相談窓口を社内に設けることで、介護離職に至る前にどういった対策を取れるか、社内で検討することも可能です。
実際に介護に関するセミナーの実施やパンフレットの作成などを通じて、介護と仕事を両立を啓蒙している企業や、直行直帰やテレワークを認めるといった独自の制度によってサポートしている企業があります。
介護離職をする前に、上司などへ相談して介護と仕事を両立する方法を模索していくことが大切です。
まとめ
介護はいつまで続くか分からず、長期にわたることもあり、介護離職すると再就職が難しいといった現実があります。介護と仕事の両立で悩んでいるときは、家族と相談したり、老人ホームへの入居を検討したりする他、国による介護支援制度の利用について勤務先に相談することが望ましいです。経済的に不安のない場合を除いては、できるだけ仕事を続けられるように考えていきましょう。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)