介護施設の退去理由上位 想定外の事態を防ぐために知っておこう!
2017.9.20
入居希望者が殺到するなか、長いこと待ってやっと入った高齢者向け施設。それなのに諸事情により退去してしまう、という利用者は年間相当数います。 傍から見れば「もったいない…」ですが、避けられない理由が実はあります。
施設選びに後悔しないためにも、退去理由を知っておいた方がよいかもしれませんね。
数千万円という入居一時金の一部が水の泡なんて…
せっかく介護施設に入居できたのに、同じ入所者間でのトラブルや想定外の事態などが原因で、結果的に退去せざるを得なくなる…などということは極力避けたいものです。
施設によっては数百万円から数千万円もの入居一時金を払ってしまっていることもあるわけで、たとえ一部はその後返却されるにせよ、大きな負担がかかってしまうのは得なことではありません。 介護施設を退去する理由について、どんな事例が多いのかをあらかじめ知っておけば、回避もしやすくなるでしょう。
ここでは「平成25年度 有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査」の報告書から、2013年7~9月の3ヶ月間で退去した利用者(死亡による退去は除く)を対象に、退去理由を紹介してゆきます。
介護付き有料老人ホームの場合…常駐と非常駐ではこんなに違う
最初に、介護付き有料老人ホームにおける退去理由を見てみます。(有効回答数1,092件/複数回答あり=以下同様)
介護付きホーム全体として最も多かった理由は「医療的ケアニーズの高まり」(60.9%)で、次いで多かったのが「経済的な理由による負担継続困難」(35.3%)でした。
上位の2つが突出して多く、以下「要介護状態の進行による身体状況の悪化」(17.7%)、「心身の状態の回復に伴う自宅復帰」(16.8%)と続き、冒頭で例として挙げた「集団生活が困難(他の入居者とのトラブル多発、関わり拒否など)」はここでは11.7%に留まりました。
また看護師の常駐体制について、
・24時間常駐の施設
・日中のみ常駐、または訪問看護等と連携している施設
・該当しない(常駐しない)
という3区分で細かく分析・調査もされています。
その結果、1位の理由「医療的ケアニーズの高まり」によって退去したと回答した割合は「24時間常駐」の施設でが46.2%、「日中のみ、または連携」が64.2%、「該当しない」が74.1%という結果となりました。
3体制それぞれの数値にかなりのバラつきがあったうえで、60.9%という結果であることが分かります。将来このような理由によりやむなく退去という事態を避けたい場合は、やはり看護師が24時間常駐しているなど、医療ケアが手厚い施設を選ぶとよいでしょう。
住宅型有料老人ホームの場合…医療機関と連携しない施設はどうなる?
続いて、住宅型有料老人ホームにおける退去理由を見てみます。(有効回答数1,332件)
住宅型ホーム全体として最も多かった理由は、介護付きホームと同じく「医療的ケアニーズの高まり」(50.0%)でした。次いで「要介護状態の進行による身体状況の悪化」(27.6%)が多く、以下「経済的な理由による負担継続困難」(22.7%)、「認知症の進行による周辺症状の悪化」(17.9%)の順となりました。
なおこちらでは、医療機関との連携体制について、
・在宅療養支援診療所・病院と協力・連携体制をとっている
・上記以外の医療機関と協力・連携体制をとっている
・いずれも当てはまらない(連携をとっていない)
の3区分で細かく調査をしています。
これによって特徴的な結果が判明したのは、「認知症の進行による周辺症状の悪化」という理由で退去した方々でした。 「認知症の進行による周辺症状の悪化」が理由で退去したと回答した割合は、「在宅療養支援診療所・病院と連携」の施設で16.9%、「上記以外の医療機関と連携」では17.3%だったのに対し、「いずれも当てはまらない」施設では47.4%と飛び抜けて高い数値だったのです。
サ高住の場合…連携未対応は施設でのトラブルメーカーを増やす?
最後に、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)における退去理由を見てみます。(有効回答数1,034件)
サ高住でも最も多かった理由は「医療的ケアニーズの高まり」(43.8%)で、「要介護状態の進行による身体状況の悪化」(24.4%)が2位でした。こちらは2位以下が比較的拮抗しており、「認知症の進行による周辺症状の悪化」(22.7%)、「経済的な理由による負担継続困難」(16.1%)、「集団生活が困難」(15.8%)、「心身の状態の回復に伴う自宅復帰」(15.0%)などが続いています。
なおサ高住でも、住宅型ホームと同じ
・在宅療養支援診療所・病院と連携体制
・上記以外の医療機関と連携
・いずれも当てはまらない
の3区分による別計算の分析がなされていて、こちらは「集団生活が困難」に特徴が表れました。
「集団生活が困難」という理由で退去したと回答した割合は、全体で15.8%だったのに対し、「在宅療養支援診療所・病院と連携体制」の施設で10.8%、「上記以外の医療機関と連携」が24.1%、「いずれも当てはまらない」が8.8%と大きな差がありました。
快適な施設が増えてゆくために…
死亡以外で介護施設を退去するという行為は、当事者にとって、あるいは施設にとって大きな出来事でしょう。
問題解決のためには理由を正しく検証する必要があります。この実態調査では、施設の条件項目を細分化することにより、明確に見えてきた実態もありました。将来退去してしまうかもしれないリスクをどう捉えるかによって、施設選びの方針は変わります。
後悔のない施設選びができるように、しっかり吟味をしましょう。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)