老人ホーム倒産数が1年で1.5倍に!倒産したら入居者はどうなる?
2017.9.1
起業後数年で多くの会社が倒産するという現代。会社を存続させることも難しい環境といえるかもしれません。 それは、老人ホーム・福祉施設に関する経営でも同じです。
老人福祉・介護事業の倒産は2016年に91件を記録し、2000年の調査開始以降、最多となりました。 実は、今後も倒産する老人福祉施設が増えてくると考えられるのです。
ここでは、老人ホームが倒産する背景と、倒産した場合に入居者が置かれる状況について紹介していきます。
なぜ倒産する老人福祉・介護事業が増えたのか
2000年に介護保険制度が開始されたことをきっかけに「高齢者が増えるこれからの時代は介護事業で利益が得られる」という発想から、不動産事業や地主など、介護とは縁遠かった企業も老人福祉・介護事業に参入することが多くなりました。
ですが、新たに増えた業者は介護事業の知識や経験が不足しているケースも多く、優秀な職員が集まらないという状態にありました。そういった施設にケアマネージャーも入居をすすめることができないため、入居率の低下を招き、スタッフの削減や経営が悪化してしまいます。これが老人ホーム倒産の要因の1つと言われています。
さらに、2006年には改正介護保険法が施行されたことも、介護事業の倒産に大きく影響しています。介護報酬が引き下げられ利益率が低下したことが、倒産する福祉・介護事業が増えた原因と言われています。2000年以降の新規の参入によって競争が激化しところに、2006年の改正介護保険法が施行されたことで、福祉・介護業界で経営がうまく行かない老人ホームは淘汰されていると言えるでしょう。
どんな事業が倒産しているのか?
日本最大手の信用調査会社「帝国データバンク」の調査から次のようなことが分かります。 特別企画:医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査
2016年の老人福祉事業社の倒産件数は91件で、2015年の58件から33件(56.9%)増加しています。2016年の件数は調査を開始した2010年以降、最悪の数字で、直近2年連続で最多件数を更新しています。業種別でみると、全体の87.9%が「訪問介護、通所介護サービス」で最も多く、業歴別では「10年未満」が全体の66%となっており、比較的若く介護サービスを提供する小規模事業者が倒産しやすい傾向にあると言えます。
介護施設が倒産したら入居者はどうなる?
倒産件数の大体が訪問介護や通所介護サービスですが、老人ホームも倒産することはあり得ます。実際、2016年に倒産した老人福祉事業は11件 ありました。 老人ホームが倒産した場合、別の会社に運営が引き継がれる「事業譲渡」が行われるケースと、引き継がれないケースの2つに分かれます。
■事業譲渡が行われた場合
施設を運営する会社が変わるだけなので、入居者が退去しなければならなくなるということはありません。また、職員もそのまま引き継がれることが多いです。しかし、建物の老朽化などが見られる場合は、引き継がれると同時に別の施設へ退去・移転を余儀なくされる場合もあります。
・介護施設が事業譲渡された場合の注意点
運営が引き継がれたからといって全てがそのままというわけではありません。 事業が引き継がれれば運営体勢が変わり、施設のサービスや規則も変わります。このため今まで無料で利用していたサービスが有料になったり、サービス自体がなくなったりしてしまうことがあるのです。また、人員の配置や食事やレクリエーションの内容も変化することも十分に考えられます。
■事業譲渡が行われない場合
ほとんどのケース、事業譲渡が行われれば、入居者はそのままそこで生活を続けることができます。しかし、施設を引き継ぐ企業があらわれない場合は老人ホームが閉鎖されることになります。
このとき、入居者は退去を余儀なくされ、新たな老人ホームを探さなくてはいけません。倒産した老人ホーム側で新たな入居先を紹介してくれるケースもありますが、紹介された老人ホームがこれまで縁のなかった遠方の土地であったり、サービス付き高齢者住宅などのような異なる事業形態になってしまったりと不安要素があります。
稀ですが、市などの行政が緊急措置として特別養護老人ホームに移らせるという措置をとったケースもあります。しかし、夫婦が別々の施設になったというケースや、特別養護老人ホームへの待機者が後回しにされ不利益を被るといった問題が起こりました。
・移転中、移転先での注意点
退去が決まり、運よく次の入居先が決まっても安心できません。
引越しの費用を誰が出すのか、入居費用はどうなるのかなどといった問題があります。入居先が決まった方の中には「入居先の施設に引越す際の送迎をお願いしたところ、介護保険の点数が引かれると言われ、急きょ家族の車で引越しをした」ということもありあります。
施設が倒産! トラブルに巻き込まれないための対策は?
2006年4月以降に開設された老人ホームでは、「入居一時金の保全措置」が義務づけられています。 これは、倒産した老人ホームが未償却分の一時金を払い戻せない場合に、銀行や損害保険会社などが一部(上限500万円)を保証するというものです。また、2006年4月以前に開設された老人ホームの場合は、保全措置が取られていないこともあります。そのため、「入居予定、入居中の老人ホームが何年に開設されているか」を確認しておきましょう。入居前に「もし倒産した場合、どのような対処がされるか」を問い合わせておくのも一つの手です。
高齢者が増え続ける現代社会において、高齢者向け施設や事業を新たに展開する企業は増えています。しかし、その全てが介護の知識や、介護施設を運営するためのノウハウを持っているとは限りません。また、職員の不足などから経営できなくなるというケースもあります。
老人ホームの倒産で思わぬトラブルに巻き込まれないためには、開設された年や倒産した時の対処内容を確認することはもちろん、安定して経営できている老人ホームを選ぶことが大切です。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)