介護ストレスの原因と解消方法|家族・介護者が限界を感じる前に対策しよう
2021.7.12
在宅介護が長く続くと、家族などの介護者の負担が大きくなり、介護ストレスや介護疲れを招いてしまうことが少なくありません。介護ストレスは、身体的な問題や精神的な問題を引き起こし、「介護うつ」につながるケースもあります。そこで、介護疲れの原因や介護ストレスによって引き起こされる問題について触れた上で、解消法をご紹介します。
親の介護ストレスの原因
介護は、長期間にわたって日々続くものであることから、在宅介護に取り組む人の多くがストレスを抱えています。親の介護ストレスの原因には、主に以下のようなものがあります。
- ・介護による疲労・睡眠不足
- ・介護時間の長さと孤立
- ・金銭的な問題
身体介護は、肉体的な疲労を招きやすく、夜のトイレの介助やオムツの交換などを行うと、睡眠不足を招いてしまいます。
また、要介護度が高くなるにつれて介護時間が長くなると、介護者は自分の時間を取りにくくなり、孤立を招いてしまうこともストレスの原因です。
さらに、介護にかかる支出や、介護者が仕事を辞めることによる収入の減少といった金銭的な問題もストレスとなります。
■介護による疲労・睡眠不足
介護の中でも、身体介護は、肉体的な疲労の要因となります。
着替え、排せつ、入浴などの介助を行う際には、要介護者を支えたり、持ち上げたりする動作を伴うため、食事の介助を含め、前かがみになる動作が多く、介護者は、腰、膝、腕などを痛めてしまいがちです。
こうした介護は身体的な負担が大きく、日々繰り返して行う必要があるため、介護者は疲労が蓄積してしまいます。
また、在宅介護では、夜もトイレの介助やオムツの交換が発生するため、睡眠不足に陥りやすいこともストレスがたまりやすい理由となります。
■介護時間の長さと孤立
一般的に、要介護度が上がるほど介護にかかる時間が長くなり、介護者は自分の用事で外出したり、趣味に充てたりする時間が取りにくく、友人などと過ごす時間の確保も難しくなります。
また、家族の問題を周囲に相談しにくいことから孤立してしまうこともあり、ストレスを抱える原因となります。
■金銭的な問題
在宅介護には、支出面と収入面の金銭的な問題を抱えることがあります。
支出面では、要介護認定を受けると、要介護度に応じて介護保険による介護サービスを利用することができますが、自己負担額が発生し、紙オムツ代などの費用もかかります。
また、在宅介護のために自宅をリフォームした場合には、介護保険による支給額は最大でも18万円のため、工事内容によっては多額の費用負担が必要です。
収入面では、要介護度が進むにつれ、仕事と介護の両立が難しくなり、介護離職をしてしまうと、要介護者の年金や貯蓄で生活することとなります。介護による支出に加え、収入が減少して経済的に不安的な状態になることが、特に大きなストレスとなります。
介護ストレスによって起きる問題
在宅介護によって、介護ストレスを抱えているにも関わらず、家族が無理して介護を続けていると、新たな問題が生じることがあります。
介護のストレスによって引き起こされる主な問題としては、以下のようなものが挙げられます。
- ・身体的な問題
- ・精神的な問題
- ・介護うつ
- ・事件に発展する
介護ストレスによって、片頭痛、めまい、不眠といった身体的な問題や、イライラしたり、ものごとに対して無関心になったりするといった精神的な問題を引き起こし、介護うつを招いてしまうこともあります。また、介護者による虐待、介護殺人といった事件にまで発展してしまうケースがあることからも、介護ストレスを解消することが大切です。
■体調不良などの身体的な問題
介護の身体的負担や精神的な負担などのストレスによって、介護者に体調不良などの身体的な問題が起き、日常生活に支障を来すことがあります。
介護ストレスによる主な体調不良の症状としては、以下のようなものが挙げられます。
介護ストレスによる主な症状 |
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こうした症状が現れたときには、「介護ストレスのサインであるかもしれない」と捉え、医療機関を受診するなどの対処法を考えていくことが大切です。介護者の中には、介護の負担を言葉にすることなく、人知れず体の不調を抱えているケースもあります。
■イライラするなどの精神的な問題
介護ストレスは、イライラするなどの精神的な問題として現れることもあり、人間関係に支障を来す可能性があります。
介護ストレスによって、主に以下のような変化が起こります。
介護ストレスによる起こる変化 |
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こういった精神的な変化が起きた場合にも、介護ストレスが疑われます。
■介護うつ
介護うつとは、介護者が介護による身体的、精神的なストレスによって、うつ病を発症することをいいます。介護うつによって、食欲不振、不眠、早朝覚醒などの睡眠障害が起こる他、倦怠感、不安感、焦燥感を感じたり、憂鬱感から自殺願望を抱いたりすることさえあります。
「介護うつ」という病名はありませんが、「うつ病」は病気です。
初期症状が出ている状態では、周囲が気づきにくいという点に注意が必要です。
こうした症状が2週間続くなど、うつ病が疑われる場合には、精神科や精神神経科、メンタルヘルス科などの医療機関を受診するようにしましょう。
■事件に発展することも
介護のストレスが続くと、介護者が虐待をしてしまうといったケースがあります。
高齢者に対する虐待のうち、「身体的虐待」は暴力を振るったり身体的な拘束をしたりすること、「心理的虐待」は脅しや侮辱的な言葉をかける、嘲笑する、無視するといった行為です。
本人の合意なく現金や預金を取り上げて使用し、本人が必要なお金を使わせない「経済的虐待」といったものもあります。
また、食事や入浴の介助といった生活をする上で必要な介護を怠ったり、介護サービスを受けさせなかったりする「介護放棄」も虐待に該当します。
ただし、介護者の中には、自身が虐待をしているという認識がないケースもあります。
また、長年の介護疲れから将来を悲観し、介護殺人や無理心中にまで発展してしまうことすら起こります。
介護ストレスによって、虐待や事件に発展してしまう前に、ストレスを解消していく方法を考えていくことが必要です。
介護のストレスチェックで気づくことが大事
介護ストレスは、自覚している人ばかりではありません。「自分の親や配偶者の親の介護を子が担うのは当然」と考えているケースなどの場合は、周囲の人に介護の愚痴一つも言えず、本人が「介護がつらい」と感じていなくても、実際には自身の負担になっていて、身体的な不調や精神的な変化を来していることもあるのです。
そこで、介護ストレスを抱えていないかどうか、簡易的なストレスチェック項目で確認してみることが大切です。該当する項目が多いほど、介護ストレスを抱えている可能性が高くあります。
ストレス チェック項目 |
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介護ストレスを解消する方法
日頃から介護ストレスを感じている人や、ストレスチェックをやってみて該当する項目が多かった人は、解消できる方法を模索していくのが望ましいです。
介護ストレスを解消するには、主に次に挙げるような方法があります。
- ・一人で全てを抱え込まない
- ・専門家への相談
- ・施設入居の検討
介護の問題を一人で抱え込んでいると、追い詰められてしまいやすいため、自分のために使う時間を確保したり、友人や介護仲間に相談したりすることが大切です。
介護の専門家に相談することで、介護方法を改善するためのアドバイスを得られることがあります。また、、介護の負担が大きいときには、施設への入居も選択肢となります。
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■一人で全てを抱え込まない
一人で介護の問題を抱えていて、日々の生活のほとんどが介護する時間となってしまうと、精神的な疲労や肉体的な疲労から追い詰められてしまい、孤立してしまいがちです。そこで、「自分の生活が介護だけ」という状況にならないように、自分の時間や、友人・知人などの外部の人たちと関わる時間を取るように意識することが大切です。
そのためには、介護サービスを利用し、介護から離れる時間を作り、趣味、外出、旅行などに充てる時間を設けるのが理想的です。家族や友人に介護に関する悩みを聞いてもらうだけでも、心が軽くなることが考えられます。
あるいは、在宅介護をする仲間を作り、オンラインで交流を図るなど、介護に関する情報交換や悩みなどを話す機会を設けましょう。
■専門家への相談
介護に関する専門家に相談すると、介護方法を改善するなどといった介護の負担を軽減するためのアドバイスをもらえることが期待できます。
相談先は、地域包括支援センター、あるいは介護サービスを利用している場合には居宅介護支援事業所のケアマネジャー、認知症の場合には主治医、利用している病院のソーシャルワーカー、市区町村の役所の介護保険課、福祉課などが考えられます。
例えば、介護サービスの利用やケアプランの見直しをケアマネジャーに相談することで、在宅介護の負担を軽減できることがあります。認知症を患っている場合には、認知症の専門医に負担となって困っていることの対処方法などを相談できます。
■施設入居の検討
介護ストレスによって、身体的な負担から介護うつになったり、介護虐待を招いたり、介護の負担から介護離職をしてしまって経済的に不安定な状態になったりする前に、施設への入居を検討することも選択肢です。
介護を必要とする家族が老人ホームなどの介護施設へ入居することで、介護者の負担は大幅に軽減されます。
「介護施設への入居は、親を見捨てることになるのでは」と罪悪感を持つ人も見られますが、共倒れになってしまっては、本末転倒です。
また、在宅介護でできることには限界があり、無理が生じている場合は、介護施設で適切なケアを受けることによって、心身の状態が向上することもあります。
介護は、長期にわたって続くものですので、施設への入居を含め、無理のない体制を取れるように検討しましょう。
ただし、介護施設によって受け入れ体制に違いがあるため、心身の状態に合った施設を探すことが大切です。
「シニアのあんしん相談室」を利用すると、全国の施設の中から希望条件に合った施設の紹介を受けることができ、施設探しの負担を軽減できます。
介護疲れの対策になる「レスパイトケア」
介護疲れや介護ストレスのための対策として、介護を一時的に休む「レスパイトケア」というものがあります。
レスパイトケアを利用することで、在宅介護を担う家族がリフレッシュできます。
■レスパイトケアとは
レスパイトケアの「レスパイト」には、「休息」や「小休止」といった意味があります。
レスパイトケアとは、公的な介護保険サービスや病院などの代理の機関を利用し、在宅介護を担う介護者が一時的に介護を離れ、休息を取ることをいいます。
■レスパイトケアの目的
レスパイトケアは、介護者の心身の疲労の回復を図ることで、介護疲れによる共倒れを防ぎ、介護を必要とする人が住み慣れた自宅での生活を維持していくためのものです。 レスパイトケアによって、介護者は介護から離れて自分の時間を確保したり、夜間に介護のことを気にせずゆっくりと眠ったりすることができます。
また、レスパイトケアは、介護を受ける側にとっても、特に「家族に負担をかけることに負い目を感じている」などといった場合には、リフレッシュできる機会となります。
■介護保険適用サービスでのレスパイトケア
要介護認定を受けると、居宅介護支援事業所のケアマネジャーなどが作成するケアプランにしたがって、介護保険による介護サービスを利用することができます。
介護保険サービスを利用したレスパイトケアには、次のようなものが挙げられます。
デイサービス(通所介護) | 朝から夕方まで施設で食事、入浴、レクリエーションなどのサービスを受けられ、専用車で送迎が行われる |
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デイケア(通所リハビリテーション) | 朝から夕方まで施設で医師の指導に基づいた専門的なリハビリテーションの他、食事、入浴などのサービスを受けられ、専用車で送迎が行われる |
訪問介護 | 食事、入浴、排せつ、着替えなどの身体介護や、掃除、洗濯、調理などの生活援助、通院時の介助などのサービスのうち、必要なサービスが決められた時間内で提供される |
ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護) | 「ショートステイ」は宿泊を伴う介護サービス、「短期入所生活介護」は日常生活の介護全般をサポートするサービス、「短期入所療養介護」は医療的な管理が必要な人のためのサービス |
介護保険による介護サービスは、収入に応じて1~3割の自己負担で利用できることがメリットです。
■自費サービスでのレスパイトケア
介護保険による介護サービス以外にも、レスパイトケア目的の自費で利用できるサービスがあります。
介護保険を利用した介護サービスは、要介護度に応じて利用限度額が決められているため、超過した分は全額自己負担となります。また、利用できるサービスに制限があることから、民間サービスも利用し、介護疲れやストレスを軽減するようにしましょう。
まとめ
介護は長く続くため、介護ストレスから共倒れにならないように解消法を考えることが大切です。一人で介護の問題を抱え込まず、家族、友人、専門家に相談したり、レスパイトケアを利用したりしましょう。
また、在宅介護の負担が大きい場合には、施設へ入居した方が介護を受ける人にとってもプラスとなるケースもあります。施設入居を検討する場合には、「シニアのあんしん相談室」を利用すると、介護を必要とする人それぞれに合った施設の紹介を無料で受けることができます。
記事監修:老人ホーム入居相談員(介護福祉士、社会福祉士、ホームヘルパー2級、宅地建物取引士、認知症サポーター)